
「夢を探すことは楽しいことだ。」
クエンティン・タランティーノ監督が2010年のベスト・フィルムで5位に選んだ本作は「髪長姫」の呼称で知られるグリム童話のヒロイン「ラプンツェル」を主人公に、自由自在に操れる驚くほど長い《魔法の髪》に秘められた謎と未知なる世界への冒険を描くアドベンチャー・アニメ。
ウォルトディズニー・アニメーションスタジオ長編作品第50作目であり、初の3Dで描かれたプリンセス・ストーリー。
ラプンツェルは、後の『アナと雪の女王』にも一瞬だけゲスト出演している。
ラプンツェルの21メートルにも及ぶ長い髪には《特別な力》が秘められていて、「外には髪を狙う悪者がいる」と育ての親マザー・ゴーテルに教えられたため、外の世界を知らずにずっと塔の中で暮らしている。
深い森に囲まれた高い塔の上から18年間一度も外に出たことがないラプンツェルは、ゴーテル以外の人間に会った事も無い。
「あなたは一生塔から出られないのよ。」
ある日、お尋ね者の大泥棒が追手を逃れて塔に侵入してくるが、ラプンツェルは魔法の髪で彼を捕らえる。
しかし、この偶然の出会いはラプンツェルの秘密を解き明かす大冒険へのきっかけに過ぎなかった・・・。
『ボルト』のバイロン・ハワードとネイサン・グレノが共同で監督を務めた本作は、フランスロココの芸術家であるジャン・オノレ・フラゴナールによる絵画『ぶらんこ』をベースとしたヴィジュアル・スタイルで、温かみがあり鮮やかな色が眩しい。
『ルパン三世/カリオストロの城』のクラリスが閉じ込められていた塔をオマージュしたオープニングから、感動のラストまで鳴り響くアラン・メンケン作曲の楽曲たちは、1960年代のフォークロックと中世の音楽を混合するという試みでとても素晴らしい。
3D効果が存分に発揮された「お城から舞い上がる灯籠のシーン」は言葉を失うほど幻想的で、ゆっくりと観客の目前まで迫って光輝く灯篭は3D映画史に残るであろう美しさと飛び出し具合。
「君が僕の新しい夢だ。」
18年間もの間、偽の母親の《エゴ》により塔から出られずに自分の《個性》を押し殺して生きてきたラプンツェルは、同じく自分の《個性》を親から制御され13年間もの間部屋から全く出れなかった『アナと雪の女王』のエルサと通じる悲劇がある。
これは子供を恐怖で洗脳し、思いのままに支配し《個性》を押さえつけ、親に都合の良い性格へ育てる「毒親」を皮肉っている。
そんな親から隠されてきた《個性》が解き放たれ、未知なる世界へ羽ばたいた時のワクワクは誰にでも体験できるものではない。
人の原動力の一つに《好奇心》もある。
ゴーテルが自らの《エゴ》により永遠の「若さ」や「美貌」に取り付かれてラプンツェルを何年も幽閉したように、人には《欲望》もある。
人は「自己肯定感」を持ち「自立」し「自己主張」出来るようになって初めて《エゴ》や《欲望》や《好奇心》が芽生え《個性》も育つ。
「行け。夢を実現させろ。」
《個性》を長年押さえつけられていた事もあり『アナ雪』のエルサ同様ラプンツェルの《好奇心》が人一倍旺盛だったからこそ、閉じ込められていた殻を破り、危険に満ちた広い世界へと旅立ち《自身の秘密》を解き明かす冒険を繰り広げる事ができた。
誰よりも好奇心の塊だったラプンツェルは、ある夢が叶う直前に「夢見た通りだったとしてどうなるの?その後私はどうすればいいの?」と不安になる。
一つの夢が叶うと、人は不安になる。
生きる目的や目標が無くなる不安。
だが、夢は何個あっても良いのだ。
夢が一つ叶ったら、また新しい夢を見つければ良いのだ。
子供の頃から持てる夢の数は、他人からも、例え親であっても支配する権利はない。
ラプンツェルが絵の具で数々の「芸術」を生み出していたように、人は、自分が「想像」できる事は全て「創造」できる。
それを知っていれば「不安」は減り、逆に「夢」はどんどん増えていく。
さあ《好奇心》という武器と《個性》という防具を身につけ夢に向かって旅立とう。ありのままで、光あびながら、歩きだそう。少しも寒くない 。
「あなたといると、何もかも違って見える。」