ローン・レンジャー (2013年版) | 愛すべき映画たちのメソッド☆

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映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「お前は悪霊じゃない、ただの白人だ。」



クエンティン・タランティーノ監督が2013年のベストフィルム10作の1本に選んだ本作は、ゴア監督とジマー楽曲とデップ主演トリオの『ランゴ』と同様に《西部劇オマージュ》が満載で、しかも西部劇史だけではなく壮大な映画史そのものを垣間見れる傑作。

これは興行成績と映画の質が必ずしもイコールではないという好例だ。

全編にエンターテインメント&サービス精神が詰まっていて、隙の無い完璧な娯楽映画に仕上がっている。

過去の海賊映画を現代に蘇らせた『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのデップとヴァービンスキー監督ら主要スタッフが再びタッグを組み、テレビドラマや映画で何度も映像化された同名作品を基に、悪霊ハンターと正義のヒーローのコンビが巨悪に立ち向かう姿を完全リブートした奇跡の150分。

本作の物語は『ローン・レンジャー』がラジオで初放送された1933年のサンフランシスコから始まり、そこから回想形式で話は過去に飛ぶ。

幼い頃に遭遇した悲しい事件への復讐をもくろむ悪霊ハンターのトントは、そのスピリチュアルな力で死の一歩手前の男、ジョンを救う。

正義感の強いジョンは、目的を達成するためならどんな手段も用いるトントと衝突するも、愛する者を奪われたことで立ち上がる。

『グリーン・ホーネット』の先祖であることの象徴でもある黒いマスクを装着し《ローン・レンジャー》と名乗り、トントと一緒に巨悪に挑む。

本作はシンプルに《愛・勇気・正義・復讐・冒険》に満ちている。

『時計じかけのオレンジ』などあらゆるメディアで使い古され誰もが知っている『ウィリアム・テル序曲』の第4部「スイス軍隊の行進」を現代的に大胆アレンジしたハンス・ジマーの壮大でカタルシスに満ちた音楽をバックに繰り広げられる《ラスト10分》の痛快で超迫力の列車アクション活劇を観るだけでもお釣りが来るほどの価値がある。

このクライマックスは、機関車で機関車を追うというフィクションならではのぶっ飛んだ豪快さ、プラス、数え切れない程の笑いと動きのアイデアに溢れていて、その怒涛の追跡劇に合わせて流れる《これぞハンス・ジマーの真骨頂》といえる骨太でワクワクするスコアに圧倒される。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』のテーマ曲「彼こそが海賊」に匹敵する高揚感を味わえる楽曲に仕上がっていると言っても過言ではない。

サイレント映画の様に表情や動きだけで笑わせながらもどこか陰のあるジョニー・デップ、頼りない姿から観客と共に成長するヒーローのアーミー・ハマー、文句なく極悪非道な悪役にちょっぴり人間味とカッコ良さを加えたウィリアム・フィクナー、出番は少ないながらも最高にクールな仕込み銃をブッ放すヘレナ・ボナム=カーター、『24 -TWENTY FOUR-シーズン3』『ワールド・ウォーZ』以上に頼れて渋いジェームズ・バッジ・デール、どんな作品でも脇でキラリと光る小悪党バリー・ペッパーなど、役者もみなとても素晴らしい。

本作の魅力は、ゴア・ヴァービンスキー監督の出世作『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの、中でも第二弾『デッドマンズ・チェスト』の《アクション・笑い》の要素とその絶妙なバランスを数段レベルアップさせた点にある。

この作品を生み出したクリエイター全員のテンションと志は、ラストの《銀の弾丸》の様に鋭く、昨今のエンターテインメント作品たちに大きな風穴を開けた。



「ハイヨー、シルバー!」