her/世界でひとつの彼女 | 愛すべき映画たちのメソッド☆

愛すべき映画たちのメソッド☆

映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「指先で君の顔に触れ、頬と頬を合わせ、そっと唇の端にキスをする。」



人格を持つ最新の人工知能型オペレーティングシステム=OSが発する「女性の声」に恋心を抱く男と、男女の「肉体的関係」と「精神的関係」の違いやバランス、恋愛におけるセックスやキスの重要性も踏まえ、逆にプラトニックな関係の成り立ちから「愛すること」の本質までを描いた「愛」についての哲学的な物語。

「マルコヴィッチの穴」「アダプテーション」「かいじゅうたちのいるところ」など、いつも独特の世界観で驚かせてくれるスパイク・ジョーンズ監督・脚本によるトリッキーな設定のSFラブストーリー。



「僕はもうこれまでの人生でほとんどの感動や感情を味わってしまった。これからの人生で味わうのは、その劣化版でしかないんじゃないだろうか。」



手紙の代筆業者「Beautiful Handwritten Letters.com」で働いている主人公は、パソコンに「ユーザーに合わせて学習する人工知能」を備えた最新型OSをインストールする。

女性の声を持つそのシステムは、主人公の全てを受け入れ、世界のこと、人間のこと、そして人間の「感情」までもを学んで成長し、だんだんと主人公にも惹かれていく・・・。

コンピューターと人間の恋愛は成立するのだろうか。

本作は、誰かを好きになることの素晴らしさ、恋する事の心の痛みと喜び、セックスという肉体的快楽と真に一つになれる喜びまで、目に見えること見えないことも含めて「愛」に関することが全て詰まったクリスマスのプレゼントボックスのようだ。



「恋は、社会が許容した唯一の狂気。」



誰もが経験したことのある切ない片想いや、嫉妬心、「好き」というシンプルな言葉さえ上手く伝えれないもどかしさ。

「好き」という簡単な言葉でありながら重たい意味、それに対する嬉しくも複雑な感情。

相手に受け入れてもらえているのか判らない不安や、受け入れられなかった時の喪失感。

素敵な景色を「一緒に見たい」と想うこと、食事をしながら「一緒に笑い合う」こと、夜明け間近の薄暗いベッドでいちゃいちゃすること。

コミュニケーションの難しさや、自分と相手との「温度差」や「距離感」をどうとらえるか、そして、人を好きになるということの意味。

そして、小さな一言で相手に大きな傷を負わせてしまう恋愛における「言葉」や「会話」の重要性。

つまり人は恋をすると絶大なる「自己肯定感」を得られる代わりに「心の防御力」が大幅に下がるのだ・・・。

本作はこれら「愛」にまつわる全ての普遍的テーマが展開する。

感情があり女性の声を持つ「デジタル」への恋と、体と体を重ね合わせ「一体感」と「快楽」を楽しむセックスというシンプルで「アナログ」な行為、本作で描かれる恋愛におけるデジタルとアナログの共存は可能なのだろうか、反発し合うのだろうか。

恋愛においてセックスは必須なのか、肉体的な繋がりが無い場合は恋愛はどう発展・成長するのか・・・。



「私はあなたのものであり、あなたのものではないの。」



「男と女」を「アナログとデジタル」に置き換えてみると、成長の早い「デジタル=女」に追いつかれ追い越され、最後は一人取り残される「アナログ=男」の物悲しさが際立つ。

女はいつも大人で、男は永遠に子供なのだろう。

自分勝手で無邪気でピュアな男は、冷静でしたたかで大人な女に振り回され、最後は見限られた原因にも気付かず捨てられたりする。

本作は「恋愛とは」という我々にとってとても大切で悩ましい普遍のテーマを巧みに描きながら、「ターミネーター」の様に「人工知能=AI」に追いつき追い越され最後は見限られ捨てられ、最悪は滅ぼされる我々「人類」の恐ろしい未来さえも密かに暗示している・・・。



「世界のどこにいようと君のことを想っているし、感謝している。」