
「そんなことで僕が嫌いになると思ったの?バカだなぁ、嫌いになるに決まってるじゃん。」
監督:水田伸生、脚本:宮藤官九郎、主演:阿部サダヲ、の黄金トリオ第一弾。
名脇役で知名度の高かった阿部サダヲ初の主演作品で、良い意味で舞台役者の様に全編ハイテンションでふざけている。
ブリーフ1枚で全力疾走したかと思えば号泣したり、さらには歌って踊って見栄を切り、とことんボケまくる「阿部サダヲ・ショー」。
そのぶっ飛んだ世界を生み出した宮藤官九郎は「見た後に何も残らないような楽しい映画を作りたい」という想いで、一度も京都に訪れず「るるぶ京都」を見ながら脚本を書き上げたそうだ。
「いい年して(殺)ネット荒らし(殺)なんか(殺)してねえで(殺)文句あんなら(殺)本名さらせ(殺)ボケ!(殺)カス!(殺)どす」
「舞妓」と「お笑い」と「音楽」で彩られたポップでエッジの効いたクール・ジャパンっぷりが既存の「映画のルール」を軽くぶち壊す。
同時に、舞妓・芸妓の世界の厳しくも歴史ある「しきたり」や「伝統」の数々や、普段は誰も覗けない華やかな世界の「裏側」も垣間見せてくれるという離れ技。
舞妓の世界だけを舞台にしたシュチュエーションコメディかと思わせといて、映画的「世界」の広がりを見せる乱暴なスケール感にも圧倒される。
「一見さん、じゃなくて鬼塚さん、ですけど。」
「舞妓と野球拳」という想い一本で生きてきた主人公は、その目的のためなら「初対面の社長に土下座」「大ヒット商品を開発」を皮切りに「プロ野球選手」「役者」「格闘家」「ラーメン屋」「政治家」とコロコロ職業を変え、しかもその全てで大成功を収める。
「京都オイデヤース」「あんさんラーメン」「THE有頂天時代劇」「出て来いやー」「山猿」「大(好き)文字焼き」「一見さんお断りのお断り」など・・・、この非現実的でパワフルで強引で笑える展開はまるで「こち亀」そのもので、ギャグ漫画的「爽快感」と、誰にも止められない推進力で眩暈さえする。
「ショートホープかと思いましたわぁ。」
真矢みきvs阿部サダヲの「一見さんお断りミュージカル」の場面も、素晴らしくも「あほらしい」ノリで長々と笑わせ、その後の2度目のミュージカルが「始まるのか?」という場面の「超短いギャグ」への伏線にもなっていて巧い。
堤真一、柴咲コウ、伊東四朗、Mr.オクレなど、脇を固める役者たちのボケも効いているし、何といっても「振り回されるだけ振り回される」生瀬勝久の「翻弄されるだけの人生」や「強い者に寝返ったり戻ってきたり」のブレブレ感など、ボディブローの様に後からジワジワくる。
その反面、ボケだけかと思われた阿部サダヲの「ツッコミ場面」にも意外と笑いどころが多い。
「楽しいです!!・・・嘘です、正直思ってた程楽しくなかった。」
全編に貫かれた「ご都合主義」を逆手にとった、思いっきり開き直ったミラクル展開の数々。
あえての強引さを「不粋」だと感じてしまわなければ、綺麗に着地する本作のラストに拍手し清々しい気分で観終われる。
この気持ち良いくらいに突き抜けた「宮藤官九郎の世界」は彼流の、彼ならではの「おもてなし」で、それを完璧に映像化した本作のクリエイター達にとっては、もちろん賛否両論は想定内だろう。
これは、好き嫌いがハッキリと真っ二つに分かれる「一見さんお断り」の粋な世界だ。
「楽しい!!ナムコワンダーエッグの100倍楽しい!!」