
「音符を一つでも間違えたら、君を殺す。」
クラシック・コンサートの最中にスナイパーに命を狙われる若き天才ピアニスト。
彼はコンサートの幕が下りるまでに愛する人を救い、4000人の観客が見守る中、ピアノ演奏を「中断することなく」密かに犯人を探さなくてはならない・・・そして、1音でも間違えたらスナイパーに殺される。
通常のピアノは「88鍵」だが「ベーゼンドルファー社」の最高級モデルで至高の名器である「インペリアル」というピアノは、低音部が9鍵拡張され全部で「97鍵」あり、ピアノ最大の音域を持っている。
拡張された9鍵は黒く塗られているのだが、その「黒鍵」が本作の鍵を握る。
「ベーゼンドルファー・ピアノ」の特徴は、選りすぐった素材を使い、長い時間をかけ職人たちが精魂込めて作ることにある。
木材はチロル地方の高地北斜面に育ったものを用いる。
厳しい環境で育った木の年輪は細かく、ピアノに最適な木材なのだ。
切り出された木材は、個々の細胞が傷まないよう屋外で「5年」にわたり自然乾燥させる。
この歳月がピアノに必要となる音の伝達性と強度を高める。
鋳鉄製のピアノ・フレームでさえ半年以上も屋外に置いて昼夜の自然環境変化を経験させ、歪みを完全に取り去ってからピアノ制作に使う。
これによりフレームは周りの木材と完全に調和することができる。
そのため、現在までにベーゼンドルファーが生産したピアノは50,000台ほどで、およそヤマハの100分の1、スタインウェイの10分の1である。
本作は『フォーンブース』や『リミット』などの作品で知られる「ワン・シチュエーション・スリラー」という限定空間でのリアルタイム・サスペンスで、「ピアノ演奏を中断すると殺される」という斬新なシチュエーションと、縦横無尽に動きまくるカメラワークや「スプリットスクリーン」などを駆使し、徐々に高まる緊迫感がクライマックスまで全く途切れない濃密な91分。
リアルタイムで演奏されるオーケストラ音楽が、そのまま映画音楽として緊迫感を盛り上げる「BGM」となっている点も非常に巧い。
ヒッチコックの『知りすぎていた男』を彷彿とさせる手に汗握る展開は、もしもヒッチコックが現代に生きていたら彼が撮ったであろう・・・と思えるほどアイデア満載の一級サスペンスに仕上がっている。
「飛行機恐怖症」から「リムジンでの送迎」そして「巻き込まれ型サスペンス」になり「孤立無援の戦い」や「妻の危機」・・・など『ダイ・ハード』を思わせる構成も面白い。
本作の素晴らしさは「シンプルさ」にもあり、主要登場人物数名の「命」や犯人への対抗策は、主人公の恐怖に震える「指先」だけが命運を握っているのだ。
本作は「ベーゼンドルファー・ピアノ」の様に、この先多くの映画作家の参考にされ続け、サスペンス映画の「クラシック」となるだろう。
「ピアニストは、作曲家が書いた譜面をただなぞるだけの操り人形だ。」
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