「お前はトラの瞳に映った自分の姿を見ているに過ぎない。」
アン・リー監督がヤン・マーテルの2001年の小説『パイの物語』を元に撮った3D冒険映画。
『アバター』 のジェームズ・キャメロン監督も絶賛した驚くべき3D効果と、《素人目には判らない》最先端のCG技術が結集し、信じられない程の壮大な冒険が目の前に繰り広げられる。
インドで動物園を経営していた主人公一家は、新天地を求めて動物と共にカナダに移住を決断。
しかし貨物船が海難事故に遭い、16歳の少年パイが人間では唯一の生存者となる。
彼は救命艇でオランウータン、ハイエナ、シマウマ、トラと過ごすことになる。
全編《生命の神秘》に満ちた世界で、後半は《海の神秘》から《宇宙の神秘》まで感じる事のできる、壮大な愛の物語。
何故、少年は小さな救命艇の上で獰猛な虎と227日間も生き延びる事が出来たのか。
その謎が判った時、《動物》としての人間の《心の神秘》を垣間見る事となる。
善と悪が共存する《心》の葛藤と《欲望》と対峙しながら人はみな生きていく。
善と悪のどちらが勝つかで人生の岐路は大きく変わるのだろう。
この物語の少年の心の中の善と悪は、常に必死に戦っている。
『ユージュアル・サスペクツ』や、チャン・イーモウ監督の『HERO』の様に、観客をミスリードする語り口の《羅生門スタイル》を匂わすラストの《独白》は、深い余韻と同時に壮絶な《もう一つの真実》が垣間見えて胸が締め付けられるし、人間の心理の恐ろしさを感じる。
アン・リー監督のもう一つの傑作『グリーン・デスティニー』の原題《Crouching Tiger, Hidden Dragon》同様、虎と竜の様に心に潜む善と悪によって《トラウマ》を抱えた人の悲しみは誰にも理解される事は無いかもしれない。
だが、トラウマをファンタジーに脳内変換するイマジネーションの素晴らしさと、夢と希望に彩られた世界で人は、癒されて助けられて、パイ(π)=円周率の永遠に続く膨大な数字の羅列の様な人生を、今日も生きていく。
「人生に別れはつきものだ。だが本当に悲しいのはさよならを言えないことだ。」
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