※はじめましての方は、まず「はじめに(解説) 」をご覧下さい。

アキとは、敬称抜きで呼び合っています。

仲の良いネット経由の友人たちとは、年齢関係なく呼び捨てにし合っているので、「呼び方は、亜美でいいよ」とアタシが伝えました。

複数人のチャットで会話することも多かったので、敬称抜きの方が都合が良かったのです。

スカイプの音声での会話の呼び捨ては、正直くすぐったい気持ちもありましたが、いつの間にか慣れてきました。

アキは、ペラペラとマシンガンのようにしゃべり倒すタイプではなく、穏やかに話します。
彼は、自分を主張しない人。他人を支配しようとしない人。
だからといって、決して意見が無い訳ではなく、確たる信念は持ち合わせています。
しかし、その信念は他者に押し付ける類のものではなく、常に己の中にあるもの。

自分を多く語らない彼がときどき見せる「優しくて強い男になりたい」という願いや、理想に向かって無言で努力を重ねている姿勢がアタシを魅了するまで、そう時間は要しませんでした。

アタシが属している職種は、「しゃべり」も重要スキルの1つ。

ペラペラと弁は立つけど、行動が伴わない男たちも沢山いる世界。
(もちろん有言実行の人も存在しますが)

対してアキは、不器用なほど「おべっか」を言えそうじゃないタイプ。
むしろ、自分の気持ちを言葉にして表現するのが苦手そう。

しかし、語らせれば理数系らしく理路整然としており、彼の言葉には胸を打つ説得力や共感力のパワーがあります。
ただ彼は、言葉で他者を支配したがらないだけ。

あまり自分を語りたがらない彼が、たまに口にする感情。

アタシは、その言葉に耳を傾け、感情を揺り動かされずにはいられませんでした。

「本当」のことしか口にしない彼に、いつの間にか惹かれていました。

年齢差13歳。
しかも、新幹線で5~6時間は掛かる遠方に住む人。

彼を好きになっても未来は存在しない。
無理に決まってる。
近付きすぎると危ない…。

でも、いつの間にか彼は、アタシの中でどんどん大きな存在になっていきました。

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父は、アタシが小学6年のときに他界しました。
母も二十歳のときに逝ってしまいました。

近しい親族は、みんな遠方。

両親の思い出が蘇る遺品に囲まれ、独りぼっちで残されたアタシは当時泣くことしか出来ませんでした。

押し入れから出てくるアタシの小さいときの服。大切に保存されていた母や父に宛てた平仮名だらけの手紙。
入院中の父にプレゼントした、アタシの工作。

勇気を振り絞って遺品整理をはじめる度に出てくる数々の思い出の品。
1人で住むには広くなりすぎた部屋の中で、泣き崩れることしか出来ない自分。

ちんぷんかんぷんの相続手続きや、法事の手配。
周りに居る友人たちに相談しても絶対にわかってもらえないだろう深い孤独と哀しみ。

「気晴らしにカラオケにでも行こう」と誘われても、部屋から出る気になりません。

遊んでも気は晴れない。誰にも会いたくない。意味がわからない死亡処理の書類なんか見たくもない。お金目当てで寄ってくる親戚にも会いたくない。

もう二十歳なのに、成人しているのに、1人では何も出来ない自分。毎日、泣き崩れて遺品整理さえ出来ない。
どうすれば良いのか判らない。部屋から出られない。ポストを開けることさえ怖くてたまらない。

哀しい、哀しい、哀しい。

お母さんに会いたい。お父さんと話したい。でも、もう会えない。

遺品整理どころか、外出さえ出来ない時期が1~2年続きました。

アタシより、ずっと早くに両親を亡くした人も世の中には沢山存在しているのに、情けないことにアタシはボロボロになってしまいました。

そういった過去が左右しているのか自分では判断つきませんが、アタシは人肌を求めます。

もちろん、人肌といっても、誰でも良い訳ではありません。

普通のカップルがどのように並んで眠っているのかは知りませんが、アタシはSにずっと抱き付いて眠っていました。
付き合って7年が経過してもずっと。

精神が不安定なときは、頻繁に夢を見てうなされ泣きましたが、Sの温もりと呼吸音がアタシの精神を安定させてくれました。

だからといって、アタシはSと「いつもいっしょ」じゃなければ、行動できないタイプではありませんでした。

「S」1人に依存し、同世代の年齢にはあり得ない存在である「アタシ」という重荷を背負わせるのがイヤだったので、敢えてアクティブに動き周り、Sが居ない世界も確立するよう努力を積み重ねました。

Sがアタシと「別れたい」と思ったときに、1人ぼっちのアタシが「可哀想」だからと、言い出せない状況に陥ることだけは避けたい。いつもそう思っていました。

もう、独りぼっちになってボロボロになるのはイヤ。

いつSが居なくなっても大丈夫なように心を強くしなければならない。備えておかなければならない。

7年間、アタシはいつもいつも、「S」との別れを前提に様々な行動の選択をしていた気がします。

備えていたつもりだったのに、Sとの破局は、またアタシをボロボロにしてしまいました。

こんな辛い想いをするくらいなら、最初から温もりなんて知らなければ良かった…。

「S」と破局してから「アキ」と出逢うまでの10年近くの間、何人からか交際を申し込まれました。

割りと出逢いが多い職場にいるので、リアル社会でもぼちぼち。
ネットのオフ会で知り合った人たちからも、ちょこちょこ。

でも、誰とも真面目に付き合えませんでした。友達以上になりたいと思えませんでした。
どうしても、セックスをする自信がありませんでした。

Sとの最後のセックスは、それほどアタシを打ちのめしていました。

Sと別れて5年目くらいに1度だけ、付き合いかけた人が存在します。

その人と、何度かセックスに挑戦しました。
でも、どうしても受け入れられません。

心は、その人のことを好きで好きで仕方ないのに、体が拒絶してしまいます。
まったく性欲が湧きません。それどころか、恐怖で体が萎縮します。

ありがちな「吐き気がする」という表現。
アタシの場合、例え話では済まず実際に吐いてしまうのです。

大好きだったのに、とっても大切に想っていたのに、アタシは無責任に彼を夢中にさせておいて、ボロボロに傷付けてしまいました。

ボロボロになったその人の姿は、「S」が居なくなった当時のアタシと重なりました。

「セックスが出来ないアタシには、恋愛をする資格がない」

もう誰も傷付けたくない。自分が傷付くのもイヤ。だから彼氏を作るのはもう止めよう。これから先は、一生一人でいよう。

そう誓って徹底して異性を遠ざけ、マンツーマンの誘いは断わり続けてきました。

アキに出逢うまでは。

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アタシは、そう多くはありませんが、何ヵ国か海外旅行経験があります。
美術鑑賞や遺跡が大好き。じっくり自分のペースで現地を巡りたいタイプなので、ツアーより個人旅行を好みます。

市場や商店街を巡り、現地の「土の香り」を感じる野菜を手に取るのも大好き。
食べることも料理も大好きなので、キッチン付きの部屋を借りてウキウキしながら現地の食材を自分で調理しちゃいます。

日本語以外はまったくしゃべれないので、ボディランゲージや筆談、メモ帳にイラストを書いたり、パントマイムの真似ごとをしたり、市場での買い物や、ホテルでの値引き交渉などは、文字どおり「身振り手振り」

海外の治安を舐めている訳ではありませんが、大抵の国は、それで何とかなります。

某国で街中が全ストに陥り、武装警官だらけになったときは、テレビニュースを見ても意味がわからず「何事!?」と驚きましたが、事前にチェックしていた日本大使館や、日本語が通じる観光局などに問い合わせることで状況を把握できたので、旅先で深刻に窮地に陥ったことはまだありません。
(ストは不便ではありますが…苦笑)

過去のアタシのネット上での発言から、旅行が趣味であることを知っていたアキと、お互いに行ってみたい国について語り合ったりしました。

アキは、いつか台湾に行ってお正月の花火を見てみたいそうです。

何気ない話の流れからの一言。

「亜美さんと海外旅行したら楽しそうだね。いつか機会があったら、いっしょに行ってみたいな。」

アキと並んで花火を見上げている風景が浮かびました。

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