自分ならこれくらいのことはできると思っていた。
やってみると、そこまではできなかった。
気づいたときには闇の中にいた。
見えないところに牙をむいた影がいて、
目を配り神経を張っていないとそいつに噛みつかれる。
そんな中を両手で探りながら歩いている。
先月の終わりごろ、
知り合いが一人死んだ。
死ぬ前に彼女はベッドの上で、
「この前、先生から、もう治療できないって言われて。
先生、いやだ、いやだって言って。
それでも、もうできることがないって。
あと一ヶ月くらいだって」
そんなふうに話していて。
ぼくは病院から帰って、
もう死んでしまう彼女のことを思って、
自我の連続性とか、今ここの特異性とか、時間反転対称性とか、シュレーディンガー方程式とか、宇宙とか、自分とか、彼女の存在とかについて考えて。
翌日、もう一度彼女に会いに行って。
死んでもまた会えるから。
そう話した。