とらのおはなし | しあわせになりたかったのに

しあわせになりたかったのに

すみませんでした。

ある朝、
一匹の虎が、
百万年の眠りから目覚めました。


あたりは真っ白な砂漠でした。
虎は朝日に照る砂を踏んで歩きました。


白い砂漠は、
本当にどこまでも広がっていました。
もう何もかも、
砂粒になってしまったみたいで、
高く昇った太陽の下には、
ただ点々と、
虎の足跡だけが続いていました。


夕暮れの砂漠を見ていると、
虎のこころを、なにか古い記憶が霞めました。
それが何だったのか、虎は思い出そうとしました。
けれどもう二度と、それは浮かんできませんでした。
虎は、自分の記憶も砂になってしまったのかもしれない、と思いました。


夜になると巨大な風が巻き起こりました。
見えない風の手のひらが砂をすくい上げ、嵐となって砂漠を覆い尽くしました。
こすれあう砂と砂が激しい稲妻を生み、
幾本もの雷となってあたりを叩きのめしました。
虎は雷をよけながら、
朝へと駆けてゆきました。


朝、
嵐の残した小さなオアシスを見つけて、
虎は喉を潤しました。
オアシスの隣でしばらく休んでいると、
砂の丘の向こうから虎美がやってきました。
「やあ、虎美じゃないか」。
「あら虎さん、奇遇ね」。


その日は、二人で砂漠を歩きました。


おしまい