ブログ小説…「エンゴク」魔仙妃伝④ | ショーエイのアタックまんがーワン

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硫天はヴィスタを出て、先ずルーシアという古都に入った。

そしてその地で軍を招集した。

しかし、ある程度、軍を集めた硫天は、このルーシアを戦場とすることは望ましくないと考え、更に南下してジョルダンという土地を目指した。

万国の中心に位置するこの古都は、国に要衝として傷を付けるべきでは無いとの判断故の事である。

また伯天が動き出したヴィスタからの距離を考えると、彼女の短気な性格を考慮して、戦闘に成れば民衆を逃がす暇もなく荒れる事に成るとも警戒した。


勿論、この戦いは内乱では有るが、お互いが利権を求めての内乱では無い。

故に誰がどの地を支配するかは、お互いに興味のない事であり、

ただ目的地…硫天山の麓エストラッドへ伯天が辿り着くか、それとも硫天が阻止するかの問題である。

そこで硫天が最適な場所に成ると選んだのが、丁度ヴィスタとエストラッドを結んだ中間であるジョルダンという土地であった。


この時、硫天に従っていた人間は、建国以前から彼を慕い長年共に彼と戦場を駆け巡った、シーレン、カルム、ホセインという三鬼将を中心としたメンバーである。

この三鬼将は、後に転生を果たして、我々の世界の「三国志」で登場する「趙雲」、「関羽」、「張飛」であると紹介する方が、読者は親しみを覚えやすいだろう…


反対に伯天に従った者は、主にその娘たち、ユリーネ、オリガ、セイラ、ギュリーという4人である。姫君であっても魔法の世界では女性も大きな戦力として活躍できる。

ある意味、我々の現代社会に於いても、「機械(マシーン)を動かす」のに男も女も関係ないというのと同じであり、スポーツに於ける男女の身体能力の差は全く関係が無いのに似ているのかもしれない。

故に4人の女将は、硫天の三鬼将に決して劣らないと言えよう。

ましてや伯天の娘として、直に彼女の力を教え込まれた彼女たちは、テンスイに殺されたシュンレイを含めて伯天五妃 【はくてんごき】と戦場で恐れられた存在でもある。


硫天の後で、ルーシアに辿り着いた伯天は、予想通りといった感じでそのまま通過した。


ある意味、今のこの二人の距離感は…

内心、出来ればお互いに戦わずに済むことを期待した時間とも言えよう。

しかし、伯天は硫天が自分の考えを受け入れる事を望み、硫天もまた彼女が自分の考えを受け入れる事を望んでいる…

お互い解り合える故に、期待には決して応じる事はないとも承知の上である。


ルーシアで一息つくことも無く南下してくる伯天の行動は、硫天も想定済みであった。

しかし、ジョルダンの民衆をせめて避難させる時間を稼ぎたかった硫天は、シーレンにルーシアとジョルダンの間で足止めするように命じた。


南下してくる伯天の手勢は十数万…

それに対してシーレンは僅か5千騎で立ちはだかった。

普通に考えれば、簡単に踏みつぶせる話の兵力さだが、忘れては成らないのがこの世界の魔力というもので、その力の下では兵力は意味が無く、誰がというのが重要なのである。


無論、例えシーレンが万の将を一駆けで殲滅する「風迅」という力を持っていたとしても、伯天自らが挑めば一溜りもない…

しかし、硫天は自分を急かす心の中に、僅かな時間に微かな期待を膨らませたいという気持ちが伯天の中にも存在する事に掛けたのだ。


そこで伯天に立ちはだかるシーレンは、伯天に向かって…


「丞相(伯天)! ジョルダンの民衆が避難を終えるまで、今しばらく軍を休められよ!…それまでこのシーレンの武芸を以て余興と致す!」


と、直接的な物言いで語った。

伯天も、もしシーレンが下手に自分を説得するような言葉を掛けてきたら、本題に対する議論をせねばならなくなり、その苛立ちから感情的な行動を起こしたかもしれない…

逆に彼の言葉は議論に成る事では無く、国政という共有できる内容を以て理解を促したものと成り、伯天も冷静に受け止めざるを得ない内容となったのだ。


ただ、伯天も軍を動かす以上は迂闊に従う訳も行かない…

無論、前述の通り、この世界での軍は数では無い…

しかし、スポーツに於ける声援で自らの昂揚感を高めるという意味では、サポーターが多ければ多い程、苦境に立った時の力に成る。

そういう意味で無下には出来ないのである。

彼らの士気を下げる事は、声援の力を失う事になる…

よって軍法的な価値観では同じなのだ…


そこで伯天はシーレンの言葉に了承したという意味で、自らは硫天との戦いに備える為、控えるとして、次女のオリガをシーレンに当たらせた。

オリガは武芸に優れた資質を持ち、その技は正に剣舞そのものといった美しさを醸し出す。

剣舞独特のトリッキーな動きは、相手に仕掛けどころを見失わせ、確実に隙を突いて仕留めるという点に特化したものである。

それでも実力的にはシーレンの武芸には僅かに及ばない事は、伯天も知るところであった。

しかし、時間稼ぎという提案に対して、二人の勝負は余興として十分なのもと成る事は確信していた。

また、シーレンも建国以前から長年家族として暮らしてきた事で、オリガ達を姪っ子の様に可愛がっていたため、上手くその意図を凌ぎきるとも踏んでいた。

逆に、オリガの方は本気で挑むだろう…ただ、彼女も彼女で察しの良い所が有り、万が一の時には上手く対応することを承知していた。


故に伯天ら家族からすれば、この勝負はスポーツとしての余興にしかならない事は理解していたが、それ以外の者には、十分な興奮を与えられる戦いを二人は演じる事と成る。


オリガが繰り出す、左右の回転を使った剣舞の動きに、シーレンは十分に付いていき…

シーレンが時折繰り出す攻撃もオリガは見事に捌き切って、再び自分のペースへと踊る様な動きで巻き返す。


誰が見ても互角の戦いにしか映らない見事なものであった…


勿論、二人の闘いの最中、魔力を消費しているわけだが、シーレンの主力の雷撃に対する打消しも、オリガの火炎に対する打消しもお互いに熟知しているため、ほぼ槍術と剣技のせめぎ合いと成っている状態である。

ただ、お互いが決着を付けようと考えているなら、また別物と成っていた事は言うまでもない。


両者は言葉を交わす事も無く、ただひたすら闘った。

その辺は流石はシーレンである…

余裕を持って言葉を掛ければ、相手は逆に我を失う…

最初は本気で挑んでいたオリガも、言葉を発せずに受けかわすシーレンにどことなく真剣さを感じ、徐々に情という気持ちが先行し始めて、シーレンのペースに合わせた感じなったと言えよう。


これを見ていた伯天は、傍にいた娘たちにこう言い放った。


「もし、ここにカルム(関羽)が来ていたら、同じ余興を促したであろうが、結局は余裕を見せつけて力を示そうとする分、私自らが挑まねば成らなくなっただろう…ましてやホセイン(張飛)であれば、鼻っから私を指名してきただろうし…」


オリガとシーレンの勝負は、更に激しさを増すも、二人の表情はどことなく充実したものに見えた。


伯天はそれを見て、続けざまに

「硫天は実に見事な人選をする…もし、私が三鬼の誰かと闘うことに成れば、手を抜くことは無く、確実に仕留めるだろうし…時間稼ぎに成らなくなったであろう…」


伯天は二人の闘いを優しげな眼差しで眺めつつ・・・


「勿論、私にも情はある…三鬼も我が家族だ…

しかし、私と硫天は圧倒的な力を内外に示す必要がある・・・

そして決して勝てぬ存在として君臨する事が、世の中にとって望ましい…

人は勝てる見込みがあるから挑んでくるのであって、勝てる見込みのない相手に挑むことは無謀だと考える…まして自分の命が掛かっていれば尚更だ・・・」


伯天は自分に従う兵士たちの方を見つめて、


「もし私が三鬼との勝負に手を抜いて互角に見せたのなら、その噂を耳にした多くの愚か者は、私に対して勝てる見込みを感じることに成るだろう…

無論、そいつら全てを踏みにじる事は簡単だが…

彼らを踏みにじるまでの間、彼らは自らの力を誇示するために世の中を荒らすだろう…

遠ければ時間もかかるし、数が多ければそれだけ更に時間が掛かる…

そう考えると、絶対に勝てない相手として君臨する事で、それらを抑止する方が、世は乱れない…」


そして、二人の闘いを通り越して、南の先を見つめながら…


「故に、情に訴えて手を抜けないのだ…

まして私ら二強が分裂する状況に成った今としては、私一人でも圧倒的な存在である事を示しておく必要がある…

………そう考えると、硫天の人選は、私に家族を手に掛けさせない最良の配慮だったといえよう…」


すると伯天はシーレンに向かって


「止めい!」


と言い放ち、


「シーレンよ! わが軍はこれよりここで暫く休息を取る! お主も引き上げ、ジョルダンに戻られよ!」


すると二人は伯天の言葉に、勝負の手を止めた。

伯天はそのままシーレンに、


「そして、硫天に伝えるがいい、一週間後にジョルダンで会おうと…」


そして、伯天はシーレンの方へ剣を抜いて突出し、ゆっくりと歩きながら、


「それともこのまま続けて、私の相手をするか…」


と威勢を放つ…

その時、シーレンは伯天の眼差しからその意図をくみ取り、


「丞相の相手をするだけの余力は流石に残っていない…ここはいったん引き上げると致す・・・」


と言って、早々に軍を引き上げた…

伯天はシーレンの明瞭な判断に、温かい眼差しで黙って賛辞を送り、その去り際を見届けた…

シーレンとの勝負を終えたオリガは、伯天の傍に駆け寄り…


「お互い無事目的を果たせた様ですね…」


と声を掛けた…

すると伯天は、


「お前も含め、私と硫天は…本当に優秀な人材に恵まれていたのだろうな…

みんな国の大事をよく理解している…」


とオリガとシーレン、二人称える言葉を贈った…


第五話へ、つづく…