伊藤昌司「相続法」その2 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「わが国では、第二次大戦後の法改正によって現行相続編が公布・施行されて以後、法定相続よりも遺言を重視しようとする解釈が有力化した。近代ヨーロッパにおける遺言自由主義が法定相続による平等に対立するものであったのと同じように、この間の我が国の遺言自由主義も、実質的には、法定相続による平等原則の緩和ないし抑制を意図していた。けれども、表向きにはその意図は隠されて、契約の自由と遺言の自由が近代的意思自由原則の両輪であるという魅力的な論法が使われた。この立場からは、遺言の自由は、契約の自由と同じく、いかなる制約も受けないのが原則であって、制約を受けるのは例外でしかない。それゆえ、法が遺言の方式について厳格であるのも、遺言者の死を死後に正確に生かすことによって遺言の自由を十全に確保するためであるから、法式が遵守されてさえいれば可能な限り遺言文言通りの効力を認めなければならないと説くことになる。」

 

「しかし、本書の立場は、もともと遺言は意思自治原則の例外であると解するので、遺言でなしうる事項が法律で限定を受けるのは当然であり、死者の意思は法律の制限内でのみ尊重されればよいと考える。すなわち、遺言事項は法律によって限定されており、解釈によって広げる余地は少ない。」