野家啓一「科学哲学への招待」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「科学が純粋な理論的研究にとどまらずに、政治や経済など他の領域と交差し、社会を横断しながら研究開発を続けていくことから生じる諸問題を、核物理学者のA・ワインバーグは「トランス・サイエンス」という言葉で表している。これは価値中立的で客観的な科学知識とその政治的・社会的利用とを区別することが困難になっており、事実と価値が交錯し融合している、という科学の現状を象徴する言葉である。ワインバーグはこれを、「科学に問いかけることはできるが、科学によって答えることのできない諸問題」と定義している。具体的な例としては、環境問題、公衆衛生や健康問題、原子力発電所の安全性などを挙げることができる。これらの諸問題は科学知識と政治的意思決定とが絡まりあっている領域であり、トランス・サイエンスという概念は、解決に科学は必要だが科学のみでは確実な結論を出すことのできない問題領域が拡大していることを示唆しているのである。」