エッカーマン「ゲーテとの対話」その9 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「話はナポレオンのことにうつった。レティーツィア夫人が、あれほど多くの英雄とあれほど偉大な一家の母親として自らを意識することがどんな気持ちであったろうか、と話した。」


「彼女が、次男であるナポレオンを生んだときは十八歳であり、夫は二十三歳だった。だから両親の若い力が彼の身体によい影響をあたえた。彼が生まれた後、彼女は三人の息子をもうけたが、みな生まれつき資質がよく、世事にたけ、活動的であるうえに、多少の詩才をもっていた。この四人の息子に続いて三人の娘が生まれ、最後にジェロームが生まれたが、兄弟たちのなかで彼がいちばん劣っていたようだね。」


「むろん才能は遺伝しないけれど、土台にはりっぱな身体を必要とするのだ。しかもそのとき、長男であるか末っ子であるか、また、生まれたとき両親が元気で若かったか、年をとって弱っていたかということは、決してどうでもよいというわけにはいかない。」


「おもしろいことは」と私(エッカーマン)はいった、「すべての才能のうちで、音楽の才能が最も早くあらわれることです。ですから、モーツァルトは五歳で、ベートーヴェンは八歳で、そしてフンメルは九歳ですでに、演奏や作曲によって周囲の人たちを驚かせています。」


「音楽の才能が」とゲーテはいった、「たぶん最も早くあらわれるのは、音楽はまったく生まれつきの、内的なものであり、外部からの大きな養分も人生から得た経験も必要でないからだろう。しかし、モーツァルトのような出現は、つねに解きがたい奇蹟であるに違いない。けれども、もし神が時として我々を驚かすような、そしてどこからやってくるのか理解できなような偉大な人間にそれを行わないならば、神はいったいどこに奇蹟をおこなう機会を見出すだろうか。」


 談論風発とはこのようなことか。