エッカーマン「ゲーテとの対話」その3 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「確かにこの若い人には才能があるよ。けれども、何もかも独学で覚えたというのは、ほめるべきこととはいえず、むしろ非難すべきことなのだ。才能のある人が生まれるとすれば、それはしたい放題にさせておいてよいはずはなく、立派な大家について腕をみがいて相当なものになる必要があるからだよ。先日私はモーツァルトの手紙を読んだが、彼のところへ作曲を送ってきた男爵にあてたもので、文面はこうだったと思う。『あなた方ディレッタントに苦言を申さねばなりますまい。あなたがたにはいつも二つの共通点が見られますから、独自の思想をお持ちにならないので、他人の思想を借りて来られるか、独自の思想をお持ちの場合は、使いこなせないか、そのどちらかです。』すばらしいじゃないか?モーツァルトの音楽について語ったこの偉大な言葉は、他のあらゆる芸術にも通用するのではなかろうか?」


「ゲーテはつづけた。レオナルド・ダ・ヴィンチはこういっているよ。『あなた方の息子さんが、自分の描くものをくっきりとした明暗によって浮きあがらせ、見る者が思わず手でつかまえたくなるくらいのセンスをもっていないようでしたら、息子さんには才能はありません』とね。さらに、レオナルド・ダ・ヴィンチは、こうもいっている。『あなた方の息子さんは、遠近法と解剖学を十分修得してから、立派な大家に師事させなさい』と。ところがだ、今どきの若い美術家連中ときたら、師匠のもとを離れるときになっても、まだその二つがろくに分からない始末さ、世の中もひどく変わったものだよ。今どきの若い画家連中には、情緒もなければ精神もない。彼らの考えというのは、何も内容がないし、ぜんぜん感動を与えないよ。剣を描いても、切れそうにもないし、矢を描いても、当たりそうもない。精神がすっかりこの世から消えてなくなったのではないかと、ときどき情けなくなるよ」