W・S・チャーチル「第二次世界大戦第4巻」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「世界で最も政治に関心を持つ民族であるという点で、ギリシア人はユダヤ人に匹敵する。条件がいかに絶望的であれ、また国家の危機がいかに重大であれ、彼らは常に多くの党派に分裂し、大勢の指導者が互いに必死になって闘争するのである。ユダヤ人が三人いると、その二人が首相になり、一人は反対党の党首になるといわれているが、これは至言である。同じことがこのもう一つの有名な古い民族についてもあてはまる。彼らの激しい際限のない生存のための闘争は、人間の思想の源泉にまでさかのぼる。そのような印を世界に残した民族はこの二つのほかにない。外部の圧制者から絶えず危険と苦痛を与えられながらも、この二つの民族はともに生存能力を発揮してきた。それに匹敵するのはただ彼ら自身の絶えざる反目、闘争、動乱である。数千年という時の経過も彼らの性格には何の変化を生み出さず、また彼らの試練や生命力を減じていない。世界中が彼らに敵対し、また彼ら自身が互いに敵対し合っているにもかかわらず、彼らは生き残ってきた。そして彼らの一人ひとりが実にさまざまの角度から、彼らの天才と知恵という遺産を残してきた。アテネとエルサレムほど人類とかかわり合いをもった都市はない。宗教、哲学、芸術における彼らの神託は、現代の信仰と文化を導く主たる光となっている。数世紀にわたる外国の支配や言葉に言い表しがたい無限の迫害にもかかわらず、彼らは依然として滅びず、現代の世界において活動的な社会と力を形成し、飽くことのない活動力をもって互いに闘争し合っている。わたしは個人的には常に両民族の味方であり、内部闘争と彼らの滅亡を図る世界の潮流とを克服して生き抜く、彼らの不屈の力を信じている。」


 最終巻『アテネのクリスマス』から抜粋