リチャード・ニクソン「指導者とは」その5 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「ドゴールという人間の面白さは、その歴史的な意義もさることながら、われわれに指導者の資質と技術を解明してくれた点にある。ドゴールは、『剣の刃』という指導者への手引書を書いている。フランス陸軍大学での連続講演をまとめ、1932年に出版した薄い本で、私はドゴールの死後まで存在を知らなかったが、読んでみて、それが私の知るドゴールの特質と政治技術を気味悪いばかりに描いているのに一驚した。後に全フランス人に呼びかけ反ナチ抗戦を指導した神秘な「ドゴール将軍』のイメージをつくり上げた技術は、彼が四十一歳の時出版されたこの本の中に、すべてタネ明かしがしてあったのである。」


「それは、単にドゴールを研究するうえでの好個の書であるにとどまらない。彼を理解するには不可欠な枠組みを提供している。『剣の刃』の中で、ドゴールは指導者たるものが持たなければならない資質を、三つ挙げている。正しい進路を選ぶ知性と本能、および国民にその道を行けと命じる権威である。」


「アカデミズムの世界に住む政治学者は、往々にして知性を重視しすぎる。だが、指導者は必ず鋭い本能を持っていた、と、ドゴールは書いている。アレキサンダー大王は、それを『希望』と呼び、シーザーは『運』、ナポレオンは『星』と呼んだ。指導者が、『ビジョン』を持っているとか、『現実把握』が優れているというのは、つまり時代の動きを本能的に察していることであり、ドゴールによれば、それは『物事の秩序の根源を衝く』能力なのである。」


「『現実を前にして、知性はその理論的かつ抽象化された概括的知識を与えてくれるが、本能は現実そのものに即して実感を与えてくれる』というわけである。本能は、複雑な状況を一刀両断にし、いきなり物事の本質に迫る。直観によって『素材』を捉えさえすれば、後は知性がそれを体系づけ、形を与え、洗練していく。知性と本能の間に正しいバランスが保たれてはじめて、指導者の決断は先見性を持つことができると、ドゴールは考える。」


 題名指導者とは」にふさわしい記述