W・S・チャーチル「第二次世界大戦1」その5 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「1937年のある日、私は駐英ドイツ大使フォン・リッペントローブ氏と会談した。彼は私と話をしたいから訪ねてきてくれないかと言ってきたのだった。私はドイツ大使館の二階の大きな部屋に迎えられた。われわれは2時間以上も話し込んだ。彼の私に対する話の要点は、ドイツはイングランドとの友好を求めているということであった。」


「彼の言うには、彼としてはドイツの外務大臣になることもできたのだが、ヒトラーに頼んでロンドンに赴任させてもらったのは、英独協商、あるいはできれば英独同盟を結ぶ役割を十分果たしたいためだというのだった。ドイツはそのすべての広大な領域にわたって、イギリス帝国のために防衛の役に立ちたい。ドイツはドイツの植民地の返還を求めるかもしれないが、しかしこれは明らかに主目的ではない。ドイツが求めるのは、イギリスによる東ヨーロッパにおける自由行動を認めさせることなのである。ドイツとしては、増大するその人口のためにもレーベンスラウム、すなわち生活圏を持たなければならない。したがってポーランドとダンチヒ回廊を併合しなければならない。また白ロシアとウクライナは、約七千万の人口をもつドイツ帝国の将来の生活に、欠くべからざるものである。それ以下では満足できない。ただドイツが求めるのは、英帝国連邦に対して、干渉してもらいたくないということである。部屋の壁には大きな地図があったが、大使は何度も私をそこに連れて行って彼の計画を説明した。」


「これらの話を全部聞き終わると、私はすぐに言った――イギリス政府としては、東ヨーロッパにおけるドイツの自由行動には同意できないことは確かだと。イギリスはソビエト・ロシアとは仲が悪いし、ヒトラーと同様に共産主義を嫌っているのは事実である。しかし、フランスがたとえ安全に保障されたとしても、イギリスは中欧東欧における支配をドイツに握らせるほど、ヨーロッパ大陸の運命に全然無関心でいることはできないことは十分承知しているはずだ。」


「それなら戦争は避けられません、それ以外に道はありません。総統は決意しています。何ものも彼を止めないでしょう。また何ものもわれわれを止めないでしょう。」


「私は単に国会議員の一員に過ぎなかったが、多少の勢力はあった、私はドイツ大使に次のように言ったが、それは正しいことだと思ったからだ――その言葉をいまでも実際に記憶している。」


「貴下は戦争のことを口にされるが、それは疑いもなく全面戦争ということになりましょう。しかし貴下はイギリスを見くびってはいけませんよ。イギリスという国は妙な国ですよ。その気持ちをたいていの外国人はよく理解できないのです。現政府の態度から判断してはいけません。一たび大きな大義名分が国民の前に示されると、この同じ政府とイギリス国民によって、全く予想もつかないあらゆる種類の行動がとられることがありますからね。決してイギリスを見くびってはいけません。イギリスは非常に利口です。もしもあなたがたが我々を、再び大戦争に投げ込むようなことがあれば、前の大戦のときと同じように、イギリスは全世界をあなたがたに向けて立ち上がらせますよ。」


 やりとりが目の前に浮かぶようである。