ランナーズ10月号から | さかえの読書日記

さかえの読書日記

琴線に触れたことを残す備忘録です。

――若き日の記者時代はどんな毎日だったのでしょう?

「とにかく取材をして、一つでも多くのスクープをとりたい一心で毎日仕事をしていました。週刊誌記者というのは因果な商売で、相手に嫌がられる質問を投げることも少なくない。目の前で名刺を破り捨てられることもありました。ハッキリ言うと『嫌な』仕事です。でも、続けてこられたのは、やはり『世の中の誰も知らなかった事実を最初に提示できた』ときの計り知れない達成感に魅せられていたからだろうと思います。」


――「苦しさの先の達成感」を30年間求め続けてきた?

「そうかもしれません。週刊誌の製作期間は大体3日か4日で、取材に時間を使うほど記事を書く時間が少なくなる。取材は『まぁいっか』という妥協心との戦いでもあるんです。そこで自分に打ち勝ってもう一歩踏み込めるか。経験的には、『あともう一人だけ取材しよう』と粘ったとき、100回に1回は決定的なネタを得られることがある。マラソンは言い換えると、『自分で決めたことをあきらめない』スポーツといえると思います。現在やりがいを感じていることの背景かも知れません。」


(キャリアの大半を週刊誌の記者、編集者として過ごした山口さんにとって、現在のホール支配人といいう立場は、畑違いのようにも映るが、それが企業人としての『大きなメリットである』と語る。)


――異動が決まった時、会社を辞めてフリーになろうといった発想などは?

「なかったですね。たとえば、浜離宮朝日ホールはニューヨーク・カーネギホール等と並び、音響が『Excellent』と格付けされたホール。その支配人なんて、個人の力ではまず経験できません。会社組織にいると、こういった幅広い体験のチャンスがごろごろ得られます。仕事って、どこへ行ってもやることは同じだと思うんです。与えられた仕事に全力を尽くす。そうすると自然とその仕事に愛着が涌いてくるから、アイディアをどんどん出るようになる。」


――新しいことに挑戦し続けることで視野も広がっていくと。

「昨日インターバル走をしながら、若いころ先輩から、『自分に2の実力があったら、積極的に難易度5の実力以上の仕事を受けろ、結果、4の成果しか上がらなくても、実力は確実に上がっていく』と言われたことをふと思い出しました。これはランニングのトレーニングにとても似ています。限界を超えた追い込む練習をしないと、現状維持が精いっぱいで、成長がない。慣れて楽な仕事ばかりしていたら、スキルはどんどん劣化していく。インターバル走のチーム分けでも、楽に走れるチームを選ぶ人はなかなか速くはならない。無理しても、1クラス上の人たちと走った方がいいんです。マラソンは仕事に通じるマネジメントを体験できるスポーツだとも、つくづく思います。」


 2011年まで、週刊朝日の編集長であった山口一臣へのインタビュー記事。現在、朝日ホール支配人。ランナーズは、マラソン愛好者向けの月刊誌