野口武彦「荻生徂徠」その3 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「儒学そのものの歴史の中でも、朱子学は革新思想であった。西欧でネオ・コンフューシャニズムとよばれるのも理由なしとしない。その大成者は、南宋の朱熹である。日本では院政期から鎌倉幕府草創の時代にあたる。儒教の古い姿がどのようなものであったかには諸説がある。ともかく古代の宗教習俗であったにはちがいないので、今これを便宜的に原始儒教ということにするが、それは孔子学派によって受け継がれ、漢代には国教とされたが陰陽五行説と付会され、唐代には訓詁学になって古典化され、宋代に一つの宇宙哲学として完成した。それが朱子学である。儒教の文献は、思想書として見るなら、例えば『論語』がそうであるようにまったく体系性を欠いている。朱子学はそれに宇宙の森羅万象から国家社会、人倫の日常にいたるまでの包括的な体系性を導入したのである。世界観を一新したといえる。」


「朱子学の根本は理気二元論である。この哲学は、まだ北宋の時代から約百年ほどの間に、周敦頤、程明道、伊川兄弟などの学者を経て朱熹によって大成されたものであるが、世界には『理』と『気』の二つの構成要素があり、万物はその混合体であると考えるところに特色がある。『天下未だ理無きの気有らず、亦た気無きの理有らず』といわれるように、『理』・『気』の両者は相互不可欠的に万物を渾成する。また、『気は以て形を成し、理も亦たこれに賦す』とされるように、『理』は形而上の存在であり、『気』は形而下の物質である。この二元は、ふつう西欧思想史の用語に比定されて、『理』は形相、『気』は質料と解されている。」


 朱子学の理解が必要か。