「思い出」その5 | さかえの読書日記

さかえの読書日記

琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「教科書の出版をしている開成館から、英語の本を編纂したから見てなおしてくれないかと申して参りまして、それに筆を入れてやりました。お礼に四十円かいくらかのお金をもらいましたので、それを私に下さいませんかといって、私が横取りしてしまいました。」



「その後、本ができて参りました。見るとそれには、ただなおしてくれと言ってきたからなおしてやったのに、れいれいしく夏目金之助著とか何とか名前が出ています。今も昔もこうした商人にぬかりはないもので、怒ってはみるけれども、もうすでに出してしまったのだからしかたがありません。ようようのことで謝罪にきて、詫び証文を入れて、結局の形においては黙認したようなことになってしまいました。

たしか、"English Supplementary Reader"とかいう、中学上級生か卒業生程度の補習読本で、英語のおもしろい物語を集めたものかと申します。それが勝手に編纂しておいて、まちがいをなおしてくれろと持ち込んで、編著にして出したのです。その本は、三、四冊出たはずです。その詫び証文は今でも家にありましょう。」


 漱石だから面白いのであろうか。