小林秀雄「ドストエフスキイのこと」 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「自分に、人間の心理について教えてくれた最大の心理学者と、ニイチェは、ドストエフスキイを呼んだ。ニイチェが、本気にドストエフスキイを読んだかどうかははなはだ疑わしいが、彼は正直に正しい読後の寸懐を記して置いた。不幸にして彼の片言は濫用された。死後を俟つまでもない、心理学者ドストエフスキイの名は生前から濫用されていたらしい。」


「この作者は、一般世人が少しも疑わぬかくかくの性格とか心理とか行為の特定の動機とか感情や情熱の型とかを疑い、もっとその底に名づけ難く混沌とした生の流れがあることを確実に知り、これを驚くほどの手腕でぼくらの眼前に拡げて見せたには違いないのだが、又同時にこの作家は、この様な恐ろしい世界を確実に見てしまった人間は、どうしてこの世に生きていったらよいか、という問題の解決を強要されていると自覚した人であった。」


 小林秀雄は語る対象自体も難しいものが多いが、その語りもむずかしい。