豊饒の海「奔馬」から | さかえの読書日記

さかえの読書日記

琴線に触れたことを残す備忘録です。

「四有輪転の四有とは、中有、生有、本有、死有の四つをさし、これで有情の輪廻転生の一期が劃されるわけであるが、二つの生の間にしばらくとどまる果報があって、これを中有といい、中有の期間は短くて七日間、長くて七七日間といわれる。」


「仏説によれば、中有はただの霊的存在ではなく、五蘊の肉体を具えていて、五、六歳ぐらいの幼児の姿をしている。中有はすこぶるすばしこく、目も耳をはなはだ聡く、どんな遠い物音も聞き、どんな障壁も透かして見て、行きたいところへは即座に赴くことができる。人や畜類の目には見えないが、ごく浄らかな天眼通を得た者の目だけには、空中をさまようこれら童児の姿が映ることがある。」


「透き通った童児たちは、空中をすばやく駈け廻りながら、香を喰ってその命を保っている。このことから、中有はまた尋香とも呼ばれている。」


「童児は、こうして空中をさすらいながら、未来の父母となるべき男女が、相交わる姿を見て倒心を起こす。中有の有情が男性であれば、母となるべき女のしどけない姿に心を惹かれ、父となるべき男の姿に憤りながら、そのとき父の漏らした不浄が母胎に入るや否や、それを自分のもののように思い込んで喜びにかられ、中有たることをやめて、母胎に託生するのである。その託生する刹那、それが生有である。」


 とりあえず書きとめておく。