![](https://stat.ameba.jp/user_images/20141002/09/ei-gataro-movie-cradle/4b/54/j/o0400056013084907328.jpg?caw=800)
クリント・イーストウッド監督、ジョン・ロイド・ヤング、ヴィンセント・ピアッツァ、エリック・バーガン、マイケル・ラマンダ、キャサリン・ナルドゥッチ、マイク・ドイル、クリストファー・ウォーケン出演の『ジャージー・ボーイズ』。
ニュージャージー州ベルヴィルに住むフランキー・カステルチオ(ジョン・ロイド・ヤング)は昼は実家の床屋で働き、夜は不良仲間のトミー・デヴィート(ヴィンセント・ピアッツァ)やニック・マッシ(マイケル・ラマンダ)らと街で盗みを繰り返しながらもバーで唄っていた。トミーの歌声に惚れ込んでいるギャングのボス、ジプ・デカルロ(クリストファー・ウォーケン)に後押しもされてやがて姓を“ヴァリ”に変え結婚もしたフランキーは、バンドにボブ・ゴーディオ(エリック・バーガン)を加えて「フォー・シーズンズ」として売り出していく。プロデューサーのボブ・クリュー(マイク・ドイル)と組んでヒットも飛ばすようになるが、バンドの金を管理していたトミーが莫大な借金をしていたことが発覚する。
リード・ヴォーカルのフランキー・ヴァリを主人公にフォー・シーズンズを描いたミュージカルの映画化。
もっとも映画版はミュージカルではなくて、オーソドックスな伝記映画として作られている。
トミーやボブ、ニックなどバンドメンバーたちが時折スクリーンのこちら側に向かって語りかけてくるのは、舞台版の名残りなのかな。
イーストウッド監督作品としては、これまでに観たことのないスタイル。
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出演者たちと一緒に写ってもひと際目立って絵になるイーストウッド御大
僕がイーストウッドの監督作を観るのは、日本では2011年に公開された『ヒア アフター』以来(その後ディカプリオ主演で撮った『J・エドガー』は未見)。
『ヒア アフター』は東日本大震災を受けて(劇中に津波のシーンがあるため)劇場公開期間中に急遽上映が中止になったことが印象に残っています。
もうあれから3年経つんですね。
イーストウッドの監督映画は長らく1~2年に1本ぐらいのペースで公開されてきて僕も2000年代以降は劇場でけっこう観てるんですが、3年ブランクが空いたのは初めてかもしれない(2012年公開の主演作品『人生の特等席』は観ましたが)。
なので、彼の新作ということでその内容についてはよく知らないまま鑑賞。
舞台が1950~60年代ということもあって、映画の中で「タモリ倶楽部」のテーマ曲に合わせて女の人がお尻振って歩いてるのが映ってちょっと笑ってしまった。
また、TVに当時放映されていた西部劇「ローハイド」のイーストウッドが一瞬映しだされてました。
映像は全体的に褪色したようなルックで、ちょうど『父親たちの星条旗』の時のような色合い。
フォー・シーズンズというバンドの名前は今回初めて知ったし、彼らの音楽についてもクライマックスでフランキーが歌う「君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes off You)」をABBAが唄ったヴァージョンで聴いたことがあったぐらい。
ミュージカル版はかなり有名のようだけど、観ていない。以下はそれらの知識が皆無な人間が観た感想です。
ストーリーについても触れますので、未見のかたはご注意ください。
ミュージカル版は全篇に歌と踊りが散りばめられているんだろうし映画版の方も劇中でフォー・シーズンズのヒット曲は何曲もかかって彼らのステージやTV番組での姿は描かれるんだけど、物語の形式は通常の劇映画のものなので登場人物たちが唄って踊るミュージカルシーンはなく(エンドクレジットのみミュージカル仕様)、主人公のフランキーが仲間たちとバンドを組んでなかなか芽が出ないあせりや苛立ち、そこからやがて成功を収める様子、フランキーの夫婦関係や娘との問題、そして1990年にロックの殿堂入りするまでが(一部で時間が逆戻りして過去が回想されたりもするけれど)基本的には年代順に描かれている。
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![](https://stat.ameba.jp/user_images/20141002/10/ei-gataro-movie-cradle/14/4b/j/t02200146_0450029913084915346.jpg?caw=800)
なので、フォー・シーズンズというバンドの成り立ちとか(実際にはメンバーの交代が頻繁にあったようだけど、ミュージカルや映画では主要登場人物の人数がしぼられている)フランキー・ヴァリの人生の断片を垣間見ることができる一方で、映画の長さが130分以上なこともあって正直ちょっと退屈してしまった部分も。
だって、よーするに多くのバンドがたどる道筋を追ってるだけだもの。金銭トラブルや何年も四六時中一緒に行動していることから起こる仲間割れとか、そんなのこれまでにいろんな映画で何百回も観てきたものだし。
このあたりは観る側の好みもあるんだろうけど、どうせそういうわかりきったお話ならミュージカル映画として観たかったなぁ。
まぁ、舞台版とはあえて違う映画独自の描き方を選んだんだろうけど、僕みたいに生の舞台劇よりもむしろ映画でのミュージカルの方が好き、という人間もいるんだから。
だからこそ、最後の最後にエンドクレジットで登場人物たちが一堂に会して踊る姿にはウルッときたりもして。
ちなみに映画版の主演のジョン・ロイド・ヤングは、ミュージカル版でもフランキーを演じていてトニー賞を受賞しているんだとか。
ちょっと面白かったのが、いきなりジョー・ペシが登場すること(演じるのはジョーイ・ルッソ)。
若き日のペシはフォー・シーズンズのメンバーと繋がりがあったようで、というか彼によればボブ・ゴーディオをトミーに紹介したのは自分だということらしい。
マーティン・スコセッシの映画や「リーサル・ウェポン」シリーズ、「ホーム・アローン」シリーズなどで有名なジョー・ペシは今ではハリウッド映画の大ヴェテランだが、この作品の中ではフォー・シーズンズの面子からもちょっと見下されてる三ピン扱い。
それが1990年にはトミーが彼の付き人になってるという皮肉(事実なのかトミーのジョークなのかよくわからないが)。
ジョー・ペシも若い頃は職を転々として俳優として成功するまでかなり苦労したらしいけど、若い頃には彼を軽くあしらっていたフォー・シーズンズのトミー・デヴィートもまた一時期の大成功からの転落、多くの苦渋を舐めた末に現在があるようで。
映画では借金返済のためにラスヴェガスに送られて、その後は1990年のロックの殿堂入りでかつての仲間たちとともに再び唄っている。
ミュージカル版の成功はご本人にも多額の収入をもたらしたようだが、劇中での彼のキャラクターはかなり誇張されていて、特に洗面台で小便したり下着を何日も替えなかったりしてメンバーから糾弾されるくだりはハッキリ創作なんだそうな。
トミーって、ちょうどかつてジョー・ペシが映画でよく演じていたトラブルメイカーというキャラ付けなのね。
確かにトミーは映画の中では一番キャラが立ってたから、ミュージカル版も含めてこの作品の成功にかなり貢献しているといえる。
まぁ実話が基になっているから、トミーは通常のこの手の映画のように悲惨な最期を遂げたりはせずにフランキーたちと幸福な再会を果たすんですが。
さっきちょっと不満を述べたように史実の方が優先されてるので、伏線とその回収といった「物語」としての面白さはほとんどない。
トミーはフランキーにドヤ顔でアドヴァイスする。「女には2種類ある。すぐヤレる女と手こずる女。どちらもヤッたあとはめんどくさい」と。
フランキーはトミーが「すぐヤラせる女」に認定したメアリー(キャサリン・ナルドゥッチ)と結婚する。
実際の彼女は大人の女性だった。
「イタリア系の名前はいつも母音で終わるので、“ヴァリ”という苗字はYではなくてIで終わる方がいい」
「フランク・シナトラを目指すのならダサいジャケットは着ないこと」
田舎町の垢抜けない小男フランキーは、彼女のおかげで次第に洗練された大人の男性になっていく。
メアリーはなかなか聡明でステキな女性であることがわかるのだが、彼女はその後はツアーで家を空けがちなフランキーに苛立って荒れるだけの存在になってしまう。
また疎遠だった父親とようやく心を通い合わせたはずのフランシーヌは、ドラッグであっけなく死んでしまう。
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![](https://stat.ameba.jp/user_images/20141002/10/ei-gataro-movie-cradle/d9/d9/j/t02200161_0450033013084915903.jpg?caw=800)
このあたりも「これが事実ですから」といわれちゃえばそれまでだけど、作品としては実にもったいない。
彼女たちが活躍するところを見たかった。
このように伝記物というのは、事実よりも物語としての面白さを優先できない不自由さがある。
それでも終盤でフランキーが「君の瞳に恋してる」を唄う場面は、けっこうグッときました。
華やかで明るいメロディの歌の裏には、愛する娘の死という苦しみがあった。
世の中の美しいもの、人々に喜びを与えるものの多くは、しばしば大いなる苦しみや悲しみの中で産み出されているという真実。
だから僕たちは、明るく美しいものに涙を流すのでしょう。
僕は観ていないけれど、この作品が舞台でミュージカルとして作られ好評を博したのも、あるいは多くのミュージカル作品が人々の心を捕らえるのも、彼らは華やかなものの中に人生の苦しみ、悲しみを見るからだ。
だからこそ私たちは美しい歌ときらびやかなダンスに酔いしれつつ、同時にどこかで哀しみと無常観を味わってもいる。
メンバーの一人、ニック・マッシが自分の存在感のなさをビートルズのリンゴ・スターに例える場面があって、いっつもメンバーの中で人気がない代名詞みたいに扱われるリンゴが気の毒になってくる^_^;
僕は全然わかんないんだけど、たとえばジョージ・ハリスンとリンゴ・スターって人気や音楽的評価にそんなに違いがあるのかな。
出演者のほとんどはあまり知られていない俳優たちで、でも演技的に拙さをまったく感じさせないのは、さすがキャスティングの段階で演出の大半を終えるというイーストウッドの腕が冴え渡っている。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20141002/10/ei-gataro-movie-cradle/37/20/j/t02200175_0800063513084916926.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20141002/10/ei-gataro-movie-cradle/ba/86/j/t02200147_0800053413084916137.jpg?caw=800)
もっとも、ラストのメンバーたちの老け顔メイク、あれはどうなんだろうと思った。
コントみたいで^_^;
いや、ハリウッドならもうちょっとマシな特殊メイクができるのではないか?
彼らはそのあと若返って唄うからああいう処理にしたんだろうけど、僕はあそこは若い頃の俳優たちに顔が似た年配の俳優に演じさせるべきだったと思う。
なんか一瞬あのメイクで醒めちゃったので。
クリストファー・ウォーケン演じるギャングのボス、デカルロは映画の中ではけっして暴力的だったり怖ろしい面を見せることはなく、優しいおじさまに見える。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20141002/10/ei-gataro-movie-cradle/95/53/j/t02200109_0620030613084913739.jpg?caw=800)
彼もフォー・シーズンズのメンバーたちも名前からしてイタリア系で、映画の作り自体がどこかスコセッシ作品を思わせたりもするが、今言ったように暴力的な描写はないし、セックスの方面もまるでウディ・アレンが撮ってでもいるかのようにおだやかで微笑ましくさえある。
老境のヴェテラン監督はどこか達観したように余裕綽々で撮ってる感じ。
この映画を観ていて興味深かったのは、自分がフランキーに多くを教え込んだ、と自負するトミーは結局バンドを脱退し、ジョー・ペシはのちに有名俳優になるといったような、出発点はほとんど同じだったり、または一歩先を行ってた(と思い込んでた)人間がいつしか追い越されて消えていく姿。
悲しすぎるほどその後の運命がまちまちになってしまう者たち。
フォー・シーズンズはまだ最後にすべて丸く収まって幸福だったかもしれないけど、そうじゃない人々だって大勢いるわけで。
何かそういうなんともいえない切なさを感じた。
映画の最後で踊る登場人物たちを観ていると、それは人生の最期に見る走馬灯のようでもあって、妙にじんわりきたのでした。
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