リドリー・スコット監督、ノオミ・ラパス、ミヒャエル・ファスベンダー、シャーリーズ・セロン、ガイ・ピアース出演の『プロメテウス』。PG12。IMAX3Dで鑑賞。
2093年、考古学者のエリザベス·ショウ(ノオミ・ラパス)とチャーリー・ホロウェイ(ローガン・マーシャル=グリーン)は、「人類の起源」の謎を解く鍵である“エンジニア”と呼ばれる異星人をさがすためにウェイランド社の宇宙船プロメテウス号に調査チームの一員として乗り込み、衛星LV-223に降り立つ。しかし地表の建造物の内部を調査するうち、乗組員たちに異変がおきはじめる。
それにしても、今年の「夏の大作映画」の1本でありながらこれほど評判が芳しくない映画もないのではないだろうか。
すでに観た人たちの評価の多くが「映像はスゴいがストーリーはかなりお粗末」ということだったので、けっこう不安があった。
ストーリーテリングは映画を推進する大きな要素でもあるから、最初から「お話がダメ」なのはちょっとキツかったりもするのだが、でも映像が見ごたえあればわりと楽しめちゃう作品だってある。
それにこれはリドリー・スコットが1982年の『ブレードランナー』以来30年ぶりに撮ったSF映画。
それだけでソソられるものがあった。
リドリー・スコットといえば映像で魅せる作家、といわれてきた。
『ブレードランナー』の魅力も、ストーリーの巧みさよりも映像がもつ圧倒的な説得力によるところが大きかったし。
『ブレードランナー』 出演:ハリソン・フォード ルトガー・ハウアー ショーン・ヤング ダリル・ハンナ ブライオン・ジェームズ エドワード・ジェームズ・オルモス ジョアンナ・キャシディ
なので、仮にお話の方にはノれなくても、リドリー・スコットが生み出す最新のSF映像を劇場で観たい、という欲求があった。
そんなわけで、とにかくこの映画はIMAX3Dで観なければ、と思っていました。
で、ようやく観に行ってきたわけですが、たしかにIMAX3Dで観て正解でした。
逆に通常のスクリーンで2Dで観てたら、はたしてこの映画のどこに見どころがあったのかまったくわからなかったかも。
これまでさまざまな人から「ヒドいヒドい」といわれてたんであまり真剣にストーリーを追わなかった分、それほど粗も気にならなかった。
というか、粗には目をつぶったという感じですが。
そのため、ずいぶんとボンヤリした感想になってしまうかもしれません。
以下、ネタバレあり。
ちまたでは、これはおなじリドリー・スコット監督の1979年の作品『エイリアン』の前日譚というふうにもいわれていて、たしかに世界観は似通っているし主人公たちを雇っている「ウェイランド・コーポレーション」という名の巨大企業、そしてあの蹄鉄かドアノッカーみたいな形の宇宙船や巨大な砲台のような操縦席に座った通称“スペース・ジョッキー”の死骸が『エイリアン』にも登場していたが、この映画では“エンジニア”は操縦席のなかで胸を食い破られて死んではいないし、調査チームが降り立ったのも『エイリアン』とは別の星(『エイリアン』では惑星LV-426)なんだそうで。
『エイリアン』 出演:シガニー・ウィーヴァー トム・スケリット イアン・ホルム ハリー・ディーン・スタントン ヤフェット・コットー ジョン・ハート ヴェロニカ・カートライト
しかも『エイリアン』1作目の時代設定は、この『プロメテウス』の舞台となる2093年より以前の「2087年」といわれている。
このように、作り手側のさまざまな事情もあってか結果的に「エイリアン」シリーズと直接的にはリンクしない、いわばパラレルワールドのような作品になっている。
現在の最新VFX技術を駆使して『エイリアン』的な世界観でSFホラー映画を作るとこうなる、みたいな。
あるいはついにリドリー・スコットも、自分の作品をなんでもかんでも「銀河鉄道999」にむすびつけてしまう松本零士や「デビルマン」の一部にしてしまう永井豪みたいな状態になってきたのかもしれないが(『ブレードランナー』の続篇の企画もあるようだし)。
それと、『エイリアン』には明確にフェミニズムについての考察、あるいはもっと直接的に性行為への嫌悪、またはレイプや望まぬ妊娠・出産への恐怖などがテーマとしてあった。
男性器の形をした頭部をもつエイリアンの成獣、隊員の口に触手を入れて卵を産みつけるフェイスハガー、寄生していた人間の胸を食い破って飛び出すチェストバスター、泣き叫ぶ女性隊員の下半身に挿入される尻尾、ヒロインのリプリー(シガニー・ウィーヴァー)の口に丸めた雑誌(平凡パンチ)をむりやり押し込むアンドロイドetc.劇中のいたるところに性的なメタファーがあふれていた。
それにくらべると、『プロメテウス』のテーマはどうもつかみどころがない。
「人類の起源」をめぐる壮大な冒険SF映画かと思って観た場合、予期していなかったホラーなテイストに戸惑うことになるかもしれない。
かといってこれまた最初からグログロなホラーを期待していくと、「う~ん、まぁこんなもんか」ってな具合に終わる可能性も。
ホロウェイが感染する場面はリアル版『スピーシーズ』みたいだったし、イカのお化けみたいな生物は、キモカワなモンスターが暴れる『スプライス』を思いだしたりした。
そして今回もヒロインの腹のなかに地球外生命体が宿り(でも彼女は恋人のホロウェイに「妊娠できない」と自分でいってたと思うのだが…)、ノオミ・ラパス演じるエリーはセルフ帝王切開というかなりスゴい力技(お腹にデカいホッチキスをバチンバチンって場面は虫垂炎の手術うけたときのこと思いだした)で危機を脱するが、あれら一連の展開がなにを意味していたのかイマイチ不明。
しかも彼女は『エイリアン』のリプリーたちのように怪物に襲われるのではなく、意図的に仕組まれたワナで“感染”するわけで。
プロメテウス号のオーナーのウェイランド社長(ガイ・ピアース。顔じゅうを特殊メイクでおおわれてるんで知らないと彼だと気づかない)が不死の生命を手に入れるためにわざわざ出向いてきたように、なにか老化や不妊についての映画なのかもしれないが、すくなくともこの映画だけではなにを描こうとしていたのかよくわからない(2部作になるという話もある)。
もっとも本家の『エイリアン』だって、ジェームズ・キャメロンが撮った『エイリアン2』以降、そして『エイリアンVS.プレデター』あたりになるともうリドリー・スコットの1作目の面影はなくて、ちょうど初代ゴジラとそれ以降の怪獣プロレス化した続篇の違いのようにまったく別ジャンルといっていいような作品になっていったので、“創造主”たるリドリー・スコットが『エイリアン』のテイストを受け継ぐ作品として原点に立ちかえるべくみずから作り上げた、ということなのかもしれない。
まぁ、リドリー・スコットという映画監督は、すべてを綿密に計算して作り上げるというよりはけっこうインスピレーションにもとづいて思いつきで撮ったりもする人らしいんで(もちろんヴィジュアル面では相当計算されているのはいうまでもないが)、「あまり深く考えずに撮った」という可能性もなきにしもあらずだが。
ところで唐突になんの根拠もない失礼なことを書きますが、この映画の予告篇をはじめて観たときから気になってたことがあって、それは主演のノオミ・ラパスの顔。
なんか妙にパンパンなんだが、フェイスリフトしてるのかな?と。
『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のときって、こんなに顔がつっぱってたっけ(メイクが濃かったからよくわからんが)。
映画本篇を観てもその違和感はぬぐえなかった。
経歴によると彼女はまだ30代前半ということだが、ちょっとそうは見えない。
なんかボトックスでも注射したような顔で、特殊メイクのようでコワいのだ。
天然だったら大変申し訳ないですが。
「ノオミ・ラパスの顔」については、今後もリサーチをつづけていきたい
『エイリアン』から多くのイメージを引き継ぎながらも、たとえばこの映画に登場するプロメテウス号は油や蒸気と湿気におおわれていた『エイリアン』の宇宙船ノストロモ号にくらべるとはるかにクリーンで、どこかスタンリー・キューブリック監督による『2001年宇宙の旅』のディスカヴァリー号をおもわせる。
これもすでにほかの人に指摘されているが、ミヒャエル・ファスベンダー演じるアンドロイド(劇中ではロボットと呼ばれる)は『2001年』のコンピューター“HAL9000”的でもある。
また、シャーリーズ・セロン演じるヴィッカーズは船長から「ロボットか?」と聞かれて憮然とした表情をみせたり、ウェイランド社長に「Father(お父様)」というが、これは『ブレードランナー』のレイチェル(ショーン・ヤング)やロイ・バッティ(ルトガー・ハウアー)を思いださせる。
このようにセルフカヴァーもふくめて「いつかどこかで観た映画」の集積で作られているともいえるこの作品には、これも多くの人たちがいっているように『エイリアン』や『ブレードランナー』に匹敵するインパクトは残念ながら見当たらなかった。
ちょうどジェームズ・キャメロンの『アバター』と、それまでの彼の作品との関係にも似ている。
だからこそ、IMAX3Dで観なきゃその魅力はじゅうぶんに味わえないのではないかと。
別にシネコンの回し者ぢゃないんで、IMAX推しはこのへんにしときますが。
困るのは、ストーリーに語るべき内容や意味がないならじつに感想が書きづらい、ということ。
映画の冒頭で、太古の地球らしき惑星で異星人“エンジニア”が黒い液体を飲み、滝に身を投じてみずからの身体をまるで固形スープをお湯で溶かすようにして生命を作り上げる。
それが人類の誕生につながったということらしい。
そしてラスト近く、そうやって何十億年もかけて作り上げた人類をエンジニアは滅ぼそうとしていたことが判明する。
理由はわからない。
彼らは人間の言葉を話さず、唯一生き残っていた一人はコンタクトをとろうとした調査隊のクルーたちを殺す。
まったくもって意思疎通や相互理解ができない相手として描かれている。
アンドロイドのデヴィッドが首を引っこ抜かれる場面の唐突な感じは印象に残った。
なんというんだろうか、リアル版『マーズ・アタック!』みたいな。
こちらは友好的に接触しているのに、あちらにはまったく通じていないばかりか、そもそも人類に対する興味自体がないようなのだ。
そのわりには人類を執拗に抹殺しようとする。
この、きまぐれのように生命を創造しておいて今度は滅ぼす、というエンジニアたちの理解不能な行動は、無慈悲で不条理な「神」というものを擬人化したもののようにも見える。
神がほんとうに存在しているとしたら、このようになにを考えているのかまったくわからない、「狂った巨人」の姿が浮かび上がるということか。
だとすれば、これは「神」の存在を妄信するヒロイン(エリーは「確信はないけど私は信じる」というあやふやにもほどがある理由でエンジニアをみつける旅に出る)とそれに同行したばかりに全滅することになった人々の愚かしくもあわれな物語ということか。
船長のいったとおり、「すべてが無駄だった」のだ。
それとも“エンジニア”というのは、人間のカリカチュアなのだろうか。
自分たちが作った生物兵器によって自滅しながらも、なおもその兵器を使ってほかの星の生き物を殺そうとするその姿は、我々人類の姿そのものではないか。
巨大なエンジニアがこれまた巨大なイカと格闘してる姿には、「いったいこれはなんの映画だ」と途方に暮れさせられたとともに、じつに滑稽でもあった。
リドリー・スコットが「ウルトラマン」を撮ったらあんな感じになったりするんだろうか(^▽^;)
最後に生まれたハゲマッチョとイカの子どもがなんだか「Dr.スランプ」に出てきたドドンガドンみたいでちょっと可愛かった。
かつてエイリアンを倒したエレン・リプリーは地球にむかったが、『プロメテウス』のエリーは「地球にはもどりたくない」といって、恋人を死に至らしめ彼女をエイリアンの苗床にしようとした(その事実を彼女は知らないが)アンドロイドのデヴィッドとともにエンジニアたちの母星をめざす。
エリーはつねに父の形見の十字架のネックレスをしていて、最後もデヴィッドからそれを取りもどす。
エボラ熱で死んだエリーの父(パトリック・ウィルソン)は、彼女が幼い頃に、人が死んだら行く場所、「天国」や「楽園」と呼ばれるところの話をしていた。
エリーにとって「人類の起源」の謎を解くことは、すなわち「人が死んだあとに行く場所」を求める旅なのかもしれない。
だから彼女は「神」のいる星にむかう。
地球からはなれて、人類を滅ぼそうとした者たちの星へ旅立ったエリーは狂っているのだろうか。
そしてそんな彼女ははたして「神」と邂逅することができるのだろうか。
※今月19日に亡くなったリドリー・スコットの実弟トニー・スコット監督のご冥福をお祈りいたします。
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