映★画太郎の映画の揺りかご


三谷幸喜監督、深津絵里西田敏行出演の『ステキな金縛り』。



妻殺しの容疑で捕まった夫の弁護を担当することになった弁護士(深津絵里)。容疑者にはアリバイがあったが、それは「事件当時、落武者の幽霊(西田敏行)にのしかかられて金縛りに遭っていた」というものだった。

以下、ネタバレあり。



これは「心を病んでしまった女性弁護士が法廷で『証人に幽霊を呼びました』といい出してまわりを混乱におとしいれる」って話か?汗

「落武者コント」でした。…いや、それはわかってて観たんだけど。

たしかにひさしぶりにカワイイ深津絵里が見られたし、竹内結子VS竹内結子の愉快な戦いとか、中井貴一の達者なコメディ演技、タクシー運転手の生瀬勝久や注文取りながら絶妙なタイミングで胸の谷間をチラチラ見せるファミレス店員の深キョン、さっきまでピンピンしてたのにいつのまにか重態になってる阿部寛とか、楽しい場面はいくつかあったし、西田敏行だってたまに笑わせてはくれるんだが。

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だけど上映時間142分って、それは長い、長すぎる。

長すぎるだけでなく、監督がみずから手がけているシナリオの精度がここんとこだいぶ落ちているんではないだろうか。『THE 有頂天ホテル』以来、あいかわらず有名俳優たちが大量出演してるけど、『有頂天ホテル』ではまだ大勢の登場人物たちにはそれぞれちゃんと出番と役割があって、シナリオではそれらをしっかりとさばいていたのが今回はどう考えても必要ないキャラが多すぎ。

佐藤浩市が『ザ・マジックアワー』と同じ役でちょろっと出てるという内輪ネタや動物の声がまた山寺宏一というお約束、篠原涼子市村正親が夫婦で仲良く出てるとか、容疑者になってしまった被害者の夫役が「愛は勝つ」のKANだったりと、サーヴィスなのかお遊びなのか知らないけど、だからなんだ、といった塩梅。

三谷幸喜のお芝居や映画自体がそもそも軽演劇っぽい作りなのだから、俳優の演技がコントっぽくて深みに欠けるとか、現実社会との関連やテーマ性が希薄とかそんなことはどうでもいいし、もっといってしまえばお話の中身なんかカラッポでもかまわない。それでも役者たちが繰り広げる狂騒のなかで観客はいつしか至福感を味わっている、そんなお芝居や映画を作ってくれてたような気がするんですが。

でも今までの作品は「コメディ」だったけど、今回は「コント」だった。そして単純にコントとしても不出来なのではないかと。深津絵里が何度も書類を床に落とすドジっ娘描写とか…大丈夫なのか?と思ってしまった。

142分もたせようといろいろと詰め込んで感動させようとしたりもしてるんだけど、途中で落武者役の西田敏行が深津絵里になんだか「いいこと“げ”な」ことをいったりするの聞いて、はじめて三谷幸喜の映画で「鼻白んで」しまった。

三谷幸喜さんはフランク・キャプラが大好きなんだそうで、この映画のなかでもキャプラの『スミス都へ行く』や『素晴らしき哉、人生!』への言及があるし、キャプラのような「ウェルメイドな娯楽映画」を志向しているようだけど、主人公が子どもの頃に父親を亡くして云々、みたいな場面の直後に上司はコントみたいな死に方してるし、「人の死」に対するリアリティの置きどころがどの辺なのかよくわかんないんですよ。人の死を面白可笑しく不謹慎に描いたってそれは全然かまわないと思うけど、だったらそういうノリでやり通せばいいのに、なんか全体的にすごく冗漫に感じてしまった。

別にくだらなくたってなんだっていいから、笑わせるならもっとおもいっきり笑わせてほしいし、コントじゃなくて「ちゃんとした物語」を描きたいんならそこを徹底してほしいんですよね。

小日向文世が演じる霊界の公安警察のような人がキャプラの映画を観る、みたいなくだりがあったけど、てっきりそれが制限時間内に目的を果たさなければならない「タイムリミット物」みたいな展開になってくのかと思ったら、まったく発展しなくてそれっきり。で、あっけなく落武者は霊界に連れ戻される。

クライマックスで殺人事件の被害者の女性(竹内結子)が“再登場”するとこなんかもムリヤリ盛り上げようとしてるけど、「こんな終わり方でいいのか?」という疑問だらけ。だって観客は犯人が誰なのか、事件の顛末をすでにずいぶん前から知ってるんだから盛り上がりようがない。どっからどう見ても犯人でしかない相手に「真犯人はあなたです」と主人公がいくらキメてみても、そこにカタルシスはない。

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法廷物ならば「そうきたか!」ってアイディアが必要でしょう。以前の三谷さんならこじつけだろうととにかくムリクリでも伏線を引っ張ってきてオチをつけたと思います。

あと、肝腎の落武者のスパイ容疑の真相の件はどうなったんでしょうかね?秀吉を裏切った疑いを晴らす、ってことだったけどほっとかれてるよな。そもそもなんでこの人は人の上に乗っかってたのか、最後までわからない。「だって幽霊ってそういうもんでしょ?」って、それでいいのか???

途中で家を出ていっちゃう主人公の彼氏(TKOの木下隆行)もエンドロールで戻ってて、全然意味がないし。

ようするに、リアリティがあるとかないとかそういうことではなくて、「お話」としてほころびだらけなんです。そして無駄な箇所が多すぎる。作品の規模が大きくなるにしたがって、シナリオはどんどん大雑把になってきてる気がする。

そんな「腹が立った!」ってほどではないんですけどね。ただ「残念だなぁ」って。僕はこの映画を「ウェルメイド」だとはまったく思えませんでした。

この映画を観て得た収穫は、「竹内結子は悪役が似合う」ということに気づかせてくれた、ってことかな。今回は最初と中盤と最後にちょこっと出てきただけだったんで、一度出ずっぱりでおもいっきり悪女を演じてほしいです。

どうでもいいけど、草なぎ君がハミングする「アルプス一万尺(ヤンキードゥードゥル)」が微妙に音程がズレてたのはわざとですかね?なんか気になってしまった。



※竹内結子さんのご冥福をお祈りいたします。20.9.27


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