映★画太郎の映画の揺りかご


イ・ジョンボム監督、ウォンビン主演のヴァイオレンス映画『アジョシ』。2010年作品。R15+



質屋をやっている青年テシク。彼はかつて特殊部隊に所属していた。母親が麻薬中毒で孤独な少女ソミは、テシクを慕ってよく遊びにくる。しかし、母親が麻薬を横領したためにソミはヤクザのマンソク兄弟に誘拐されてしまう。


韓国映画は『悪魔を見た』以来。

あの映画で「当分、リアルな暴力描写はけっこう」と思った。

で、そろそろまた面白そうな映画が出てきたので。




ウォンビンの出演映画は『母なる証明』を観たきりだけど、あの作品1本で彼に対しては「ただのイケメン俳優じゃない」という信頼感がうまれた。

ソミ役のキム・セロンは『冬の小鳥』が高い評価をうけているけど、残念ながらそちらは未見。

以下、ネタバレあり。



“アジョシ”とは、「おじさん」のこと。

ソミはテシクをそう呼ぶ。

それはいいんだけど、ソミの母親までもが「おじさん」と呼ぶのはどういうわけか。

観てて「お前がゆーな」と思ってしまった。

監督は最初、主人公にはもっと年配の俳優を考えていたらしい。

たしかにウォンビンは見た目が若々しいので「特殊部隊出身」というには少々貫禄が足りない気はしたけど、それでもとにかく身のこなしは軽いし、特にクライマックスで見せるナイフさばきは見ごたえアリ。

身体はバッチリ作ってあるし、そして大切なのが、たとえば顔つきがどことなく似ているキムタクからはつねに感じる「気取り」が彼にはないことである。

「カッコ良く見せよう」という嫌らしさがない。

長髪のときには頼りなさげな優男風だったのが、髪を切ると精悍さが増す演出も心憎い。

結論としては、ドン引きするような“超暴力”は抑えて、エンターテインメント作品として、またウォンビン主演のスター映画としてもバランスがとれた作品だったんじゃないかと。

ところどころハリウッド映画調のカット割りのために、いまや韓国映画名物である暴力シーンの「エグさ」が良くも悪くも若干薄まってる。

もちろん、そうはいってもR15+なんで「めっちゃ痛そう」な残酷描写はしっかりとありますが。

韓国のヤクザたちが中国の“商売相手”のことを「大陸の奴ら」と呼んで、あーだこーだと評してる様子はなかなか興味深かった。

そういう微妙な感情を描くのは今の日本映画じゃタブー視されがちだけど、現実では差別意識だってあるわけだし。

いつものことながら、俳優たちの“顔”には恐れ入る。

なんかキングオブコメディブサイクな方みたいな顔の刑事とか、アナゴさんみたいな唇のヤクザ兄弟の兄貴とか、オモシロ顔がいっぱい。

でもみんな軍隊行っててガタイがいいから、怒らせたら怖そう。

オ社長のくだりでは、この映画のなかでは数少ないギャグのひとつ「“人体の神秘展”に展示してやる」に笑った(あとは太った中国語通訳のシーン)。

この映画で描かれる麻薬売買や臓器売買がどれほどリアルなのかはわからないけど、先日日本でも医者が暴力団とツルんで臓器売買に手を染めていた事件があったり、まったくの絵空事とは思えないところが恐ろしい。

主役から脇の出演者まで、ウォンビンはもちろん刑事役の役者さんたち、そして敵のマンソク兄弟、彼らのもとで働く加藤雅也似の殺し屋も、みんな演技が本当に素晴らしい。

恐怖を浮かべた顔、泣き叫ぶ顔。

かと思えば無表情の怖さ。

似たような顔だちなのに、どうして日本映画ではこういう演技がなかなか見られないのだろう。

ソミ役のキム・セロンは長台詞が少しばかり棒読みな感じがしなくもなかったけど(韓国語はわからないので、ただの感じですが)、それでも「私がおじさんのことを嫌いになったら、好きな人がいなくなっちゃうから嫌いにはならない」と涙ながらに語る場面なんかもなかなかよかった。




YouTubeの予告篇のコメント欄に「『レオン』の真似っぽいから観る気がしない」とか書き込んでる人がいたけど、『レオン』のような主人公と少女のふれあいはそれほど長くは描かれないし、映画のほとんどはソミを救い出すためのテシクの孤独な戦いに費やされている。

観もしないで予告篇の印象だけでそんなこといってる奴はアフォだと思います(断言)。

主人公のテシクにとって、ソミはもしかしたら自分にもこんな娘がいたかもしれない、という思いを抱かせる存在で、だからこそ彼は言葉少なで無愛想ながらも、なついてくる彼女を受け入れていたのだろう。

そんなソミの命が危機に晒されたとき、彼は本当に守るべきものを取り戻す。

韓国映画のなかに見られる暴力はしばしば非常にインパクトがあるが、『悪魔を見た』のときにも思ったんだけど、過剰な暴力がリアルに描かれるからといってそこにかならずしも社会的な問題提起が込められているとはかぎらない。

この『アジョシ』だって、基本的には「主人公が少女を救い出すために悪い奴らと戦う」娯楽作品だ。

ハリウッド映画からの影響は随所に見られるし監督もそのことにはインタヴューなどで言及しているが、しかしハリウッドのみっともないモノマネではない娯楽作品の「型」をしっかりと作り出した韓国映画界は本当に侮れない。

娯楽だからって手を抜かない。

娯楽だからこそ手を抜かない。

だから僕は韓国映画をスゴいと思うし、こうして劇場にまで足を運んで観るのだ。



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