第11回:グローバル企業で痛感した『会議の無駄』ー日本の会議が変わらない理由
こんにちは。前回は、外資系企業で学んだ「フィードバック」の技術についてお話ししました。
今回は、日本企業に戻ってから最も強く感じている「会議の非効率さ」について書きたいと思います。外資系企業での経験を通じて、日本の会議文化の問題点が鮮明に見えてきました。
大手企業に戻って最初の衝撃
外資系企業から大手日系企業に転職して、初日のことです。
朝9時に出社すると、すぐに会議の連続でした。
- 9:00-10:00 週次定例会議
- 10:00-11:00 部門横断会議
- 11:00-12:00 プロジェクト進捗会議
- 13:00-14:00 予算検討会議
- 14:00-15:30 役員報告会議
- 16:00-17:00 次週準備会議
1日の8時間のうち、6時間半が会議。実際の仕事をする時間は、ほとんどありませんでした。
外資系企業との違い
外資系企業でも、もちろん会議はありました。でも、決定的に違ったのは、
- 会議の目的が明確
- 時間が厳守される
- 参加者が限定されている
- その場で結論が出る
- 会議後のアクションが明確
そして何より、無駄な会議は容赦なく削除される文化がありました。
ミハエルの「会議に対する厳しい姿勢」
外資系企業時代、ミハエルは会議に対して非常に厳しい姿勢を持っていました。
「この会議、本当に必要か?」
ある日、私が新しい定例会議を提案した時のことです。
私:「プロジェクトの進捗を共有するために、週次の会議を設定したいのですが」
ミハエル:「待て。その会議、本当に必要か?」
私:「はい、情報共有のために...」
ミハエル:「情報共有なら、メールやチャットでできる。会議でしかできないことは何だ?」
私:「...」
ミハエルの「会議の3つの条件」
ミハエルは、会議を開くための3つの条件を教えてくれました。
1. 明確な意思決定が必要
- 単なる情報共有は会議ではない
- 何かを決めるために集まる
2. 複数の関係者の合意が必要
- 一人で決められることは会議にしない
- 関係者全員の意見が必要な時だけ
3. リアルタイムの議論が必要
- メールやチャットで解決できないこと
- その場での即座の反応が必要なこと
「この3つの条件を満たさない会議は、時間の無駄だ」
ミハエルの言葉は明確でした。
日本の会議の「5つの無駄」
大手日系企業に戻って気づいた、日本の会議の問題点を整理してみます。
無駄①:目的が不明確
よくある光景
会議が始まって、こんなやり取りが繰り広げられます。
司会:「では、定例会議を始めます」
参加者:「今日の議題は何ですか?」
司会:「特に決まっていませんが...何かありますか?」
目的のない会議が、定期的に開かれている。これが日本企業の現実です。
外資系企業では
ミハエルの会議には、必ず事前にアジェンダが送られてきました。
Meeting Agenda: Project Review
Date: March 15, 2:00 PM - 2:30 PM
Duration: 30 minutes
Objectives:
1. Decide on design approach A or B (Decision needed)
2. Assign tasks for next sprint (Action items)
3. Resolve budget allocation issue (Problem solving)
Pre-read: Design_comparison.pdf (Must read before meeting)
- 会議の目的が明確
- 何を決めるかが明記されている
- 事前資料が共有されている
- 時間が厳密に設定されている
「目的のない会議は、そもそも設定しない」。これが鉄則でした。
無駄②:事前準備がない
日本の会議の典型
会議が始まって、初めて資料が配られる。
参加者はその場で資料を読み始める。
説明者が、資料を最初から読み上げる。
質問や議論は、資料を読み終わった後。
会議の半分以上が、資料を読む時間に費やされる。
オイルメジャーとの会議で学んだこと
オイルメジャーの担当者との初めての会議で、私は大きな失敗をしました。
当日、プレゼン資料を持って会議に臨んだのですが、彼らは開口一番こう言いました。
「ケンジ、資料は事前に送ると言ったはずだが?」
私:「はい、今日お持ちしました」
担当者:「今日?我々は事前に読んで、質問を準備してくる。その時間がないなら、この会議は意味がない。リスケジュールしよう」
会議は、その場で中止になりました。
「Pre-read」の文化
その後、ミハエルから徹底的に教育されました。
「グローバルスタンダードでは、会議の資料は最低48時間前に共有する。参加者は事前に読んで、質問や意見を準備してくる。会議では、議論と意思決定だけをする」
- 資料を読む時間は会議時間ではない
- 会議は議論と意思決定の場
- 事前準備がない人は参加資格がない
この考え方は、衝撃的でした。
無駄③:参加者が多すぎる
日本の会議あるある
「念のため」「情報共有のため」「後で文句を言われないため」
こういった理由で、どんどん参加者が増えていきます。
20人、30人が参加する会議。そのうち、実際に発言するのは3〜4人だけ。
残りの人は、ただ座っているだけ。
ミハエルの「2 Pizza Rule」
ミハエルは、アマゾンのジェフ・ベゾスが提唱した「2 Pizza Rule」を徹底していました。
「ピザ2枚で足りる人数以上の会議は開かない」
つまり、6〜8人が上限。
「それ以上増えると、議論の効率が急激に下がる。全員が発言できないなら、その人は参加する必要がない」
「必須参加者」と「任意参加者」
外資系企業の会議招集メールには、必ずこの区別がありました。
Required (必須):
- Kenji (Project Lead)
- Michael (Manager)
- Sarah (Design Lead)
Optional (任意):
- Tom (参考情報として必要な場合のみ)
- Lisa (決定後の実行担当、結果だけ共有)
「必須」以外は、参加しなくてもいい。議事録で結果を共有する。
この明確な区別が、無駄な参加を防いでいました。
無駄④:時間が守られない
日本企業の時間感覚
- 開始時刻:5分遅れてスタートが当たり前
- 終了時刻:予定を30分、1時間オーバーも日常茶飯事
- 「すみません、延長していいですか?」という言葉
そして、参加者の次の予定は全て押していく...
ミハエルの時間厳守
外資系企業での最初の会議。
私は5分遅れて会議室に入りました。すると、ミハエルがこう言いました。
「ケンジ、会議は始まっている。遅刻は、他の参加者の時間を奪う行為だ」
そして、会議は予定通り30分でピッタリ終了。
まだ議論の途中でしたが、ミハエルは言いました。
「時間だ。続きは次の会議で。今日決まったことを確認しよう」
タイムボックスの概念
ミハエルから学んだ「タイムボックス」という考え方。
- 会議時間は厳守する
- 時間内に結論が出なければ、別の会議を設定する
- だらだらと延長しない
「時間を延長すれば結論が出るというのは幻想だ。時間内に結論を出す緊張感こそが、効率的な会議を生む」
無駄⑤:結論が出ない
日本の会議の結末
1時間の会議が終わって、こんな締めくくり。
司会:「では、この件は引き続き検討ということで...」
参加者:「はい、分かりました」
何も決まっていない。次に何をするかも不明確。
そして、また同じ議題で会議が開かれる。
ミハエルの「会議の終わり方」
ミハエルの会議は、必ずこう終わります。
「今日の会議で決まったことを確認する」
- Decision(決定事項):何を決めたか
- Action Items(行動項目):誰が、何を、いつまでにやるか
- Next Steps(次のステップ):次の会議はいつか、何を議題にするか
そして、会議終了後30分以内に、議事録がメールで全員に共有される。
Meeting Minutes: Project Review
Date: March 15, 2:00 PM - 2:30 PM
Decisions Made:
1. Design Approach B was selected
2. Budget: $50,000 approved
Action Items:
1. Kenji: Submit detailed design by March 22
2. Sarah: Complete risk assessment by March 20
3. Tom: Arrange vendor meeting by March 18
Next Meeting: March 25, 2:00 PM
Agenda: Review detailed design and finalize timeline
曖昧さが一切ない。これが「結論のある会議」です。
オイルメジャーから学んだ「会議の型」
オイルメジャーとのプロジェクトでは、さらに洗練された会議手法を学びました。
会議の4つのタイプ
彼らは、会議を明確に4つのタイプに分類していました。
1. Information Sharing(情報共有)
- 目的:情報を伝える
- 時間:15分以内
- 実は、メールで済むことがほとんど
2. Discussion(議論)
- 目的:アイデアを出し合う、問題を議論する
- 時間:30〜60分
- 結論を出すことは目的ではない
3. Decision Making(意思決定)
- 目的:複数の選択肢から決定する
- 時間:30〜45分
- 必ず結論を出して終わる
4. Problem Solving(問題解決)
- 目的:発生した問題の解決策を見つける
- 時間:45〜90分
- 根本原因の分析と対策の決定
型を明確にすることの重要性
会議招集の時点で、「この会議はどのタイプか」を明記します。
これにより、
- 参加者が準備すべきことが明確になる
- 会議の進行方法が決まる
- ゴールが共有される
日本の会議は、この「型」が曖昧なまま始まるから、迷走するのです。
私が大手企業で始めた「会議改革」
現在、私は大手日系企業のマネージャーとして、チームの会議改革に取り組んでいます。
ステップ1:会議の棚卸し
まず、すべての定例会議をリストアップしました。
そして、ミハエルから学んだ「3つの条件」に照らし合わせて評価。
結果、30%の会議が「不要」と判断されました。
- 情報共有だけの会議 → メール配信に変更
- 参加者が多すぎる会議 → 必須参加者のみに絞る
- 目的不明の会議 → 廃止
ステップ2:会議のルール設定
チーム内で、以下のルールを設定しました。
会議招集のルール
- 目的を明記する(Decision / Discussion / Problem Solving)
- 資料は48時間前に共有
- 参加者は10人以内(原則)
- 時間は30分 or 60分(15分刻みは禁止)
会議進行のルール
- 開始時刻厳守(5分遅刻したら参加不可)
- 終了時刻厳守(延長は原則認めない)
- 議論の脱線は司会が即座に戻す
- 会議中のパソコン・スマホは禁止(資料閲覧以外)
会議後のルール
- 議事録は24時間以内に共有
- 決定事項とアクションアイテムを明記
- アクションアイテムの進捗を次回確認
ステップ3:「Standing Meeting」の導入
短い会議は、立ったまま行う「Standing Meeting」を導入しました。
これは外資系企業で学んだ手法です。
Standing Meetingのルール
- 時間:15分以内
- 全員立ったまま
- 一人2分以内で報告
- 議論はしない(議論が必要なら別途会議を設定)
立ったままだと、人は長く話せません。自然と簡潔になります。
そして、15分経ったら容赦なく終了。
最初は「冷たい」と言われましたが、3ヶ月経つと、メンバーから「効率的だ」という声が上がるようになりました。
ステップ4:「会議コスト」の可視化
これは少し大胆な試みでしたが、効果がありました。
会議室のホワイトボードに、「この会議のコスト」を書き出すのです。
今日の会議コスト計算:
参加者10名 × 平均時給5,000円 × 1時間 = 50,000円
この会議で50,000円分の価値ある決定ができましたか?
数字で見せることで、参加者の意識が変わります。
「本当に自分が参加する必要があるか」
「この議論は会議でやるべきか」
考えるようになったのです。
ステップ5:「会議のKPI」設定
さらに、会議の質を測る指標を設定しました。
会議の3つのKPI
- 時間遵守率:予定時間内に終了した会議の割合
- 決定率:明確な決定事項が出た会議の割合
- 満足度:参加者の「有意義だった」率
毎月、これらを測定し、チーム全体に共有。
半年後、すべての指標が劇的に改善しました。
- 時間遵守率:40% → 85%
- 決定率:30% → 75%
- 満足度:50% → 80%
抵抗と変化
もちろん、改革は簡単ではありませんでした。
最初の抵抗
「日本では、みんなで情報共有することが大切なんだ」
「会議を減らすと、コミュニケーションが減る」
「上司に報告する機会がなくなる」
こういった反対意見が、たくさん出ました。
一つずつ対応
私は、一つずつ丁寧に説明しました。
「情報共有は大切だが、会議でやる必要はない」
- メール、チャット、社内SNSで十分
- 本当に大切な情報は、会議で共有する
「コミュニケーションは減らさない。無駄を減らすだけ」
- 1on1は継続する
- カジュアルな雑談の時間を別途設ける
- 会議以外のコミュニケーションを活性化
「報告の機会は、別の形で確保する」
- 週次の進捗報告(書面)
- 月次の1on1
- 重要事項は随時報告
若手からの支持
興味深いことに、若手社員からは圧倒的な支持を得ました。
「やっと、実際の仕事ができる時間が増えました」
「会議が短くなって、集中力が続くようになりました」
「何を決めるための会議か分かるので、準備がしやすいです」
一方、ベテラン社員の中には、今でも違和感を持つ人もいます。
「なんだか、味気ない」
「昔はもっと、みんなで議論したものだ」
でも、結果が出ているので、徐々に理解は広がっています。
日本の会議が変わらない「本当の理由」
1年間の会議改革を通じて、私が気づいたこと。
日本の会議が変わらないのは、「方法を知らない」からではありません。
理由①:「会議=仕事」という錯覚
日本企業では、会議に出ることが「仕事をしている証拠」になっています。
会議が多い人 = 重要な人
会議に呼ばれる = 評価されている
こういった価値観があるのです。
だから、会議を減らすことに抵抗がある。
理由②:「決めない」ことのリスク回避
日本の組織文化では、「決める」ことにリスクが伴います。
決めた人が責任を取らされる。
失敗したら批判される。
だから、結論を先送りにする。「引き続き検討」で済ませる。
会議で何も決めなければ、誰も責任を取らなくていい。
理由③:「根回し」文化
日本では、会議の前に「根回し」をします。
事前に関係者に個別に説明し、了承を得る。
会議は「儀式」。既に決まったことを「公式に確認する場」。
だから、会議での議論は形式的になり、時間がかかるのです。
理由④:「同調圧力」
誰かが「会議を減らそう」と言っても、
「でも、これまでずっとやってきたから」
「他の部署もやっているから」
「上が決めたことだから」
こういった理由で、変えられない。
変化を提案する人が、「協調性がない」と見なされるリスクさえあります。
理由⑤:「時間の価値」への意識の低さ
根本的に、「時間はタダ」という意識があります。
残業が美徳とされる文化。
長時間働くことが評価される風土。
だから、会議が長引いても「まあ、いいか」となる。
時間の価値を、本気で考えていないのです。
グローバル企業との決定的な違い
オイルメジャーとの仕事を通じて痛感したのは、時間に対する考え方の違いです。
「Time is Money」の本当の意味
欧米企業では、本当に時間をお金として扱います。
1時間の会議 = 明確なコスト
だから、無駄にしない。最大限の効率を追求する。
「結果」で評価される文化
外資系企業では、「何時間働いたか」ではなく「何を成果として出したか」で評価されます。
会議に長時間いること ≠ 仕事をしていること
会議で決定を下すこと = 仕事
この価値観の違いが、会議の質を決めているのです。
「個人の責任」の明確さ
グローバル企業では、一人ひとりの責任が明確です。
だから、会議で決めることができる。
一人で判断できることは、会議にしない。
日本のように、「みんなで決めた」という集団責任の文化とは、根本的に違うのです。
「効率的な会議」は日本でも可能だ
ただ、私は諦めていません。
日本企業でも、効率的な会議は実現可能です。
実際に変わったチーム
私のチームは、1年で劇的に変わりました。
改革前
- 週の会議時間:平均25時間/人
- 実働時間:15時間/人
- メンバーの満足度:低い
- プロジェクト完了率:60%
改革後
- 週の会議時間:平均10時間/人
- 実働時間:30時間/人
- メンバーの満足度:高い
- プロジェクト完了率:85%
会議を減らしたら、生産性が2倍になったのです。
他部署への広がり
最近、他の部署からも問い合わせが来るようになりました。
「どうやって会議を減らしたんですか?」
「その手法を教えてほしい」
少しずつですが、変化の波が広がっています。
明日から始められる「5つの実践」
最後に、読者の皆さんが明日から始められることを5つ、お伝えします。
実践①:会議前に「目的」を確認する
会議に参加する前に、主催者に聞いてください。
「この会議の目的は何ですか?」
「私は何のために参加するのですか?」
もし明確な答えがなければ、参加を辞退することも検討してください。
実践②:事前資料を「必ず」読む
会議の資料が事前に共有されたら、必ず読んでから参加する。
そして、会議では「資料に書いてあること」を説明させない。
「資料は読みました。質問は○○です」
これだけで、会議時間は半分になります。
実践③:会議の最後に「確認」する
会議が終わる前に、必ずこう聞いてください。
「今日決まったことは何ですか?」
「誰が、何を、いつまでにやりますか?」
もし曖昧なら、その場で明確にする。
実践④:「15分前終了」を提案する
60分の会議を、45分で終わらせることを提案してみてください。
最初は難しいかもしれませんが、意識するだけで変わります。
時間制約があると、議論が引き締まります。
実践⑤:「本当に必要か」を自問する
会議を設定する前に、自分に問いかけてください。
「この会議、メールで済まないか?」
「1対1の相談で解決しないか?」
「本当に全員参加が必要か?」
この問いかけだけで、不要な会議の30%は消えます。
最後に:会議は「手段」であって「目的」ではない
ミハエルが教えてくれた、最も大切なこと。
「会議は、仕事を進めるための手段だ。会議すること自体が目的になってはいけない」
日本企業の多くが、この本質を忘れています。
会議に出ることが仕事になり、
会議で時間を使うことが評価され、
会議の数が多いことがステータスになっている。
でも、本来は違います。
会議は、決めるための場。動くための場。前に進むための場。
そして、会議を減らせば減らすほど、実際の仕事をする時間が増える。
成果が出る。
メンバーが成長する。
組織が強くなる。
私は、この1年の経験を通じて、それを確信しました。
次回は、「外資系企業で目の当たりにした『グローバル人材』の本当の意味」について書きたいと思います。
「英語ができる」だけでは、グローバル人材ではありません。本当に求められるものは何か。私の失敗談も含めて、お話しします。
それでは、また次回お会いしましょう。
あなたの1時間が、もっと価値あるものになりますように。