イラストと絵本、新しい色と表現の世界 | えほんや通信

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名作童話の電子出版「えほんや」の編集長・原 真喜夫のブログ。こどもの本と教材、雑誌、実用書の編集を手がける編集プロダクション・スキップの代表取締役。アロマテラピーにも目覚める。村上春樹、マーヴィンゲイ、寿司と焼き鳥、日本酒とワイン。

ヘンゼルとグレーテル
「ヘンゼルとグレーテル」

グリム童話の中でも、最も有名なものの一つですよね。
描いていただいたのは
越濱久晴さん(http://hisaharu.com)

ご覧の通り、日本人の筆によるとは思えないような絵柄です。
今回は、あえて英語版の画面を載せますね。

越濱さんはアメリカでの生活も長く、デザイナーを経て
イラスト、絵本の仕事をされるようになりました。

とても素晴らしい色使いと
絶妙な構図が特徴です。

3場面、連続してご紹介しましょう。

ヘンゼルとグレーテル
ヘンゼルは、継母に捨てられそうなことを知って、
パンを小さくちぎって、道に落として行きます。

ヘンゼルとグレーテル
森の奥、疲れきったヘンゼルとグレーテルは眠ってしまいます。
道に残して来たパン屑は、そうです、鳥たちに…

ヘンゼルとグレーテル
夜になって、二人は森の中をさまよいます。
グレーテルは怖くなってしまうのですが…

電子えほんでのページの流れの重要性

絵本に限らず、電子書籍ではページを飛ばすのが
紙の本に比べてやりにくいです。

もちろんできなくはないけれど、
「え~っと、あのページどこだっけ」と
探すのは、指先で、実体のあるページをめくる方が
ずっと早くて確実です。

そのかわり、
紙の本より圧倒的に良いのは「色」
です。

これは、画家さんに完成後に作品をiPadで
見ていただいたときに異口同音に言われます。

また、弊社のサイトで連載している絵本作家さんへの
インタビューでも皆さん「色が良いですね」
感想を述べられています。

プロとして、自分の絵と印刷物を
ずっと、比較して見て来た
画家さんが言うのだから、間違いない。


少し専門的ですが、iPadやコンピュータの画面、またテレビなどは
RGB(Red, Green, Blue) の光の三原色を重ねて色を再現しています。
これに対して印刷物ではCMYK(Cyan, Magenta, Yellow Black)の4色を
塗り重ねて色を再現しています。

光は重ねるほど明るく、鮮やかになるけれど、
インクは重ねるほどに濁ってしまう。


先ほどの3ページは、この
「ページを飛ばすのが苦手」「色には強い」
という電子えほんの特徴が見事に結びついた
素晴らしい表現になっているのです。

「パン屑→居眠り→夜の道」という、この3場面は
「緑→赤→紺」の色のハーモニーを味わいながら
横に流れて行く。
時間も「朝→夕暮れ→夜」と流れて、
物語も二人がまさしく捨てられてしまう、前半のクライマックスです。
色使いも「希望→不安→絶望」を象徴するような並び方です。

たぶん、優れた画家さんというのは無意識のうちに
こうした画面を構成できてしまうのだと思います。


そして、おかしの家へ…

おかしの家

「おかしの家」、なんと甘美な存在でしょう。

アリスの「ワンダーランド」やアラジンのランプなどとならんで、
クリエイターの心をとらえてやまない
創造物のトップクラス
に位置するものでしょう。

そして、子どもにとっても、
見てみたい(食べてみたい?)
物語の舞台装置の最たる物
ではないでしょうか。

さらに見てほしいのは、この場面の二人の反応!

グレーテルは、魔女の登場の瞬間、すぐさま
危機を察知して、食べかけの窓ガラス、いや、
透きとおった砂糖菓子から手を離しています。

ヘンゼルは、驚いた様子ですが、まだ
クッキーを手放せずに持っている。
「何ノンキなことをしてるんだい、ヘンゼル!」と
親の立場なら思わずしかりたくなっちゃうところですよね。

女の子と男の子の描き分けが素晴らしい!

それもそのはず、越濱さんは
女の子と男の子の双子(!)をお持ちのお父さんなんです。
この場面のほかにも、日頃の経験と観察のたまものと思える
細かな表現がそこここに隠されています。
そして、何より大きな愛情が感じられますよね。

ご本人からも「2012年のベストワークでした」と言っていただけた
この『ヘンゼルとグレーテル』。

デザイナー、イラストレーターと経験を重ねて来た
越濱さんのクリエイティビティがあますところなく発揮された一作です。

イラストから絵本へ、絵本から電子えほんへと、
表現が変化し、新しい世界がふくらんでいくことを
見せてくれる作品でしょう。