「うしと かえる」の新しい創造 | えほんや通信

えほんや通信

名作童話の電子出版「えほんや」の編集長・原 真喜夫のブログ。こどもの本と教材、雑誌、実用書の編集を手がける編集プロダクション・スキップの代表取締役。アロマテラピーにも目覚める。村上春樹、マーヴィンゲイ、寿司と焼き鳥、日本酒とワイン。

牛とかえる
イソップの「うしと かえる」
ふじしま青年(あおとし)さんが
柔らかい色でシニカルな物語を描いてくれました。

かえるが、牛に負けまいと、自分のおなかを
思いっきりふくらませて、最後には破裂してしまう
というお話です。

原作の「イソップ寓話集」(岩波文庫・中務哲郎訳)では、
こんな風に描かれています。

「牛が水を飲んでいて、ひきがえるの赤ん坊を踏みつぶしてしまった。
 母親が外出から戻って、赤ん坊はどこかと兄たちに尋ねたが…」

そうです、母親が主人公なのです。

そして、お腹をふくらませる母がえる対して子どもたちは
「止めなよ、それ以上ふくらまないで。あいつの大きさに近づく前に、
 途中で破裂するよ」

と止めに入ります。

ふじしまさんと展開を相談しながら、この原作を
何カ所か変えました。

成長し、変化する物語
牛とかえる
牛との遭遇の前に、のどかな昼下がりの場面を追加しました。
悲劇(喜劇?)の前に、日常のとても平和なシーンを見せます。
映画などでもよく使われる手法ですよね。


そして、その後に…
牛とかえる
地面を揺るがすようにして、なにかとてつもないものが近づいてきます。
その物体を見上げる、カエル3兄弟の緊張した後ろ姿が印象的です。


巨大な物体は脚を大きく上げた!牛とかえる

「ズン、ズン、ズン…
 わあ、ふみつぶされる! にげろ!」


迫真の1枚です。
子がえるは殺さず、ふまれて、けがをするだけにしました。

命からがら戻って来た子がえるに、父親が尋ねます。

そいつは、このぐらい大きかったのか?
「もっともっと、大きかったよ!」
牛とかえる

そして、最後、父がえるは、おなかを
大きくふくらませ過ぎて、破裂してしまうのです。

「このシーンを描きたいんだ」
と、ふじしまさんが強くおっしゃいました。
ご自身が幼いころに読んだ絵本で、
このシーンの印象がものすごく強かったと。

こわいような、ユーモラスなような、この大爆発。

ふじしまさんと唸りながら、検討を重ねた末に
主人公を父がえるに変えて、「バーン』とやることにしました。
こうして「えほんや」版の「うしと かえる」が誕生しました。

描きたい絵を描いてもらう。
これが、「えほんや」の大きな編集方針です。


絵の力こそが、子どもたちにいちばん訴えかける力
持っていると信じるからです。
そして、この絵本を読んだ子どもたちが、
何かをこの絵から受け取ってもらえれば、と思います。

そのためには、ハッピーエンドだけではなく、
ときには残酷なエンディングも必要でしょう。
画家さんと一緒に、手探りで新しい絵本の可能性を見つけていきます。

画家さんが自分のイメージを思いっきり画面にぶつける。
それによって、これまでにない絵本が「えほんや」で、
できつつある、そんな手応えを感じる一作です。