今日の読書は
ともぐい
河崎秋子 作
新潮社
文に力があります。ぐいぐい引き込まれます。熊爪というのが主人公の名前です。熊爪は猟師です。山で一人暮らし。
里人とは隔絶した生活をしています。
山に棲むのは、獣。
熊爪は、山に住んでいるけれど、獣ではありません。では里人みたいな「人」かといえば、人でもない。人でも獣でもないような熊爪。そんな熊爪の生き方を描いています。
熊爪は、獣と本気で付き合います。多分犬との付き合いも本気の親友だったと思います。熊の赤毛とは、対等に真剣勝負をします。獣同士の戦いのようでもあります。そこは山人だけあって里人のレベルではありません。
そんな獣と人の間にいるような熊爪は、里人であって里人でないような女性を引き取ります。この陽子という女性も、人と獣の間のような女性です。目は見えるのに、世間を見ようともせず、子どもを孕んでいます。
人里にいながら、精神的には孤独に一人で生きている。そんなところが獣のような女性です。子どもを孕んでいる、というところも獣を感じさせます。
タイトルになっている『ともぐい』というのは、この人と獣の間にいるような2人が一緒に暮らしてともぐいになったのではないかと思うのです。はっきり言うと、陽子が熊爪を食ってしまった気がします。同じ性質を持った仲間だったと思うのに、陽子は熊爪を殺してしまいました。
熊爪は、赤毛との戦いで弱っていたし、弱った獣は食べられる。と言ったところでしょうか。
人里がどんなに文明化しても人間もまた獣(動物)ではあるわけで、だからこそ熊爪のような生命力に満ちた生き方とその物語に惹かれるのでしょう。また、その生命力に見合った力に満ちた文章が、すごくマッチしているのです。
河崎秋子さん、さすがですね。
おまけです。作中、熊爪が自分を訪ねてきた小僧に
「疲れたら食え」
と、干した赤い実を渡します。そして
「五味子だ」
と言います。
きっと朝鮮五味子のことですね。利尻にたくさんなります。疲れたら、干したものを食べればいいのだ!と初めて知りました。今度食べてみようと思います。
ではでは、読書の秋をお過ごしください。