判例タイムズ1538号で紹介された事例です(名古屋高裁令和6年10月30日判決)。

 

 

本件は、生活保護法を受けていた母親と同一世帯の構成員である息子の所有する自動車につき、処分行政庁(市)から息子の通院に限り保有及び利用を容認され、運転記録票を提出するよう複数回にわたり求められたにもかかわらず、これを提出しなかったなどとして、市が、母親に対し保護の停止処分をしたことが違法であるとして国家賠償請求されたという事案です。

 

 

【判旨】(第一審と同様に市の処分を違法としたが認容額を5万5000円に減額)

 ⑴ 法62条1項は、保護の実施機関が法27条の規定により被保護者に対し必要な指導又は指示をしたときは、被保護者はこれに従わなければならない旨を定め、同条3項は、被保護者がこの義務に違反したときは、保護の実施機関において保護の変更、停止又は廃止をすることができる旨を定めている。
 本件停止処分は、被控訴人らが、法27条に基づき本件指示等を受けているにもかかわらず、本件車両の保有条件を遵守せず、指導指示内容の履行がされていないことを理由とするものであり、確かに、前提事実及び上記認定事実によれば、被控訴人らは、処分行政庁から、被控訴人子の通院で利用する以外の目的だけで本件車両の利用をしないこと及び本件車両を利用するたびに運転記録票へ正確に記録し当該運転記録票を毎月福祉事務所に提出することを内容とする本件指示等を受けたにもかかわらず、本件車両を被控訴人子の通院以外にも利用していたこと及び運転記録票にその利用状況を正確に記録し提出することを怠ったことが認められる。
 ⑵ しかし、そもそも生活保護法による保護は、生活に困窮する者に対し、困窮の程度に応じて、その最低限度の生活を保障すること等を目的として必要な保護を行うものであり、保護の変更、停止又は廃止は被保護者の権利利益に重大な影響を及ぼし得るものであること、そして、法27条に基づく指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない旨定められていること(同条2項)に照らすと、被保護者に対し、法27条に基づく必要な指導又は指示に従うべき義務に違反したことを理由としてその保護の変更、停止又は廃止をするに当たっては、当該指導又は指示の必要の程度やこれに対する違反の程度と、当該保護に関する処分をすることによって被保護者の生活に生ずる影響を考量し、その処分が適正な保護の実施のために必要かつ相当なものであることを要するというべきであり、その必要性又は相当性を著しく欠く場合には、行政権の裁量の逸脱・濫用として違法となるというべきである。
 ⑶ これを本件についてみると、本件指示等は、被控訴人らに対し、①被控訴人子の通院で利用する以外の目的だけで本件車両の利用をしないこと、及び、②本件車両を利用するたびに運転記録票へ正確に記録し、当該運転記録票を毎月福祉事務所に提出することを指示等するものであるので、これらを、以下、順に検討する。
 ア まず、上記①に関しては、被控訴人らは、確かに、本件車両を被控訴人子の通院で利用する場合に限って保有及び利用することを容認されたものではあったが、本件指示等がされた当時、被控訴人子だけではなく、被控訴人母においても通院の必要性があったことが認められるから、本件車両の利用目的を被控訴人子の通院に限定してそれ以外の目的だけでの自動車の利用をしないよう指導すること、つまり、被控訴人母の通院のみの目的で利用することを制限する指導をすることが、当時必要であったとは考え難い。

 また、本件車両に処分価値はなく、本件車両の維持費等は、被控訴人らの生活保護の範囲内で賄っていたことに照らすと、被控訴人らの日常生活に不可欠な買物等の必要な範囲において本件車両を利用することは、むしろ、被控訴人らが自立した生活を送ることに資する面があったというべきであり、補足性の観点からみても、被控訴人らが本件車両を上記範囲で利用することを厳格に制限する指導を行う必要性は低かったというべきである。そして、被控訴人らは、処分行政庁による上記①の指導に大きく反して本件車両を遊興・娯楽等のために利用していたとか、被控訴人らが本件車両の利用に際し、通院や移動に要する費用やサービスを新たに要求したり、虚偽の申告をしたり、不正の手段を用いたりしてその費用を支出していたなどといった事実は、本件全証拠によっても認められない。
 イ さらに、上記②に関して、処分行政庁は、被控訴人らに対し、本件車両を利用するたびに、運転記録票に「キロ数(開始時走行距離・終了時走行距離)」、「運転経路」及び「用件(具体的に)」の必要事項を正確に記載するよう求めるとともに、運転記録票を毎月福祉事務所に提出するよう求めたものであるが、被控訴人子の通院が、鈴鹿市の自宅から四日市市の羽津医療センターへ月1回必要とされており、おのずと月に必要な運行距離は分かることからすると、被控訴人らの本件車両の利用状況を把握するために、被控訴人らに上記の各事項を全て正確に記録することを指示する必要性は、相当低かったというべきである。
 ウ 他方、本件停止処分により被控訴人らが受ける不利益の程度について見ると、本件停止処分時の被控訴人らの病状等は、被控訴人母につき、膀胱がんの手術によりストーマを購入しなければならない状況であり、被控訴人子については、定期的な投薬等がなければ生命に危険が生じる状況であったことが認められ、被控訴人母に対して保護の停止をすれば、被控訴人らの医療費等について支出が困難になり、被控訴人らの日常生活だけではなく、生命の危険も生じかねず、被控訴人らが被る不利益は非常に重大なものであったと認められる。
 ⑷ 以上によれば、本件指示等の必要は低く、違反の程度は大きくないものであった一方で、本件指示等に違反したことを理由としてされた本件停止処分は、被控訴人らに非常に重大な不利益を与えるものであったというべきであり、本件停止処分は、相当性を著しく欠くもので、行政権の裁量を逸脱した違法があるというべきである。