判例タイムズ1545で紹介された裁判例です(大阪地裁令和7年3月26日判決)。

 

 

特定商取引法の適用がある契約では契約内容を明確にした法定書面の交付が義務付けられており、クーリングオフはその交付がされた日を起算日としますので、不備のある法定書面を子封したとしてもいつまでもクーリングオフ期間が進行しないことになります(不備のない法定書面が交付されるまではクーリングオフが可能)。

 

 

本件は、脱毛エステサービスの事例ですが、原告は、本件エステ契約は、有償コース及びアフターサービス(契約書では回数無制限で受けることができるとされていた。その期間も、最終利用日から1年(妊娠等の事情がある場合は2年)を経過しない限り、無制限とされていた。)によって構成されているのに、被告が特商法42条2項に基づき本件対象消費者に対して交付したとする書面には、本件アフターサービスの形態や回数の変更可能性、中途解約時における本件アフターサービスに対する精算金が生じるような精算方法、本件アフターサービスに対する精算が不要である合理的な理由についての記載がない不備なものであり、クーリングオフが可能であると主張しました。

被告は、アフターサービスは、契約終了後のサービスであって、特定継続的役務提供契約である本件エステ契約を構成しないと反論しました。

 

 

【判旨】

・本件アフターサービスは、本件対象消費者による本件エステ契約締結当時、期間及び回数無制限で、本件有償コースと同様に被告の従業員による施術を行うというものであった。本件対象消費者は、本件有償コースの施術期間が終了した後も、本件アフターサービスによって、本件有償コースの施術期間中と同一の施術を継続的に受け続けることができるから、本件アフターサービスは、それ自体社会通念上独立した経済的価値を有する役務であるといえる。
・また、前記前提事実(2)のとおり、本件エステ契約により施術される光脱毛は、医療機関が医療行為として行う医療脱毛に比して一施術当たりの効果が薄弱であるから、脱毛の効果を得るには長期間継続して施術を受ける必要がある。そうすると、本件対象消費者は、被告従業員による施術を長期間継続して受けられることを前提に、本件エステ契約の締結を検討するといえる。加えて、脱毛施術を自分で行うか他者が行うかは、施術可能な身体の範囲にも影響する問題であって、本件対象消費者にとって重大な関心事である。このような事情からすると、本件対象消費者は、期間及び回数無制限で、被告の従業員による施術が受けられるという本件アフターサービスの経済的価値を考慮した上で、本件エステ契約を締結したと判断される。
・被告は、本件アフターサービスは契約終了後のサービスであり、本件エステ契約を構成しないと主張し、前記認定事実(1)のとおり、本件エステ契約の契約書上、本件アフターサービスは無料とされている。

・しかし、本件有償コースの代金の多くは数十万円と高額であること、被告が本件アフターサービスを提供するに当たっては、本件有償コースと同様の経費が発生すると考えられることからすれば、本件エステ契約の代金は本件有償コースに対する対価のみならず、本件アフターサービスに対する対価をも含むと解されるから、本件アフターサービスは、本件有償コースと一体となって実質的に有償で継続的に提供される役務提供であるといえる。
・したがって、本件エステ契約は、本件有償コース及び本件アフターサービスによって構成されていると認められる。
 

・被告は、特定継続的役務提供契約である本件エステ契約を締結したときは、役務提供の形態又は方法について本件エステ契約の内容を明らかにする書面を本件対象消費者に交付しなければならない(特商法42条2項1号、同施行規則93条1項2号(令和5年2月1日号外内閣府・経済産業省令第2号による改正前は33条1項2号))。

・前記アのとおり、本件エステ契約は、本件有償コース及び本件アフターサービスによって構成されているから、被告は、特商法42条2項に基づき本件対象消費者に交付する書面において、本件アフターサービスの提供の形態又は方法を明らかにする必要がある。
・同項の趣旨は、特定継続的役務提供契約の締結に当たり、役務の提供を受けようとする者に、その内容や解除(クーリング・オフ)に関する事項等に関して十分な情報提供を行い、適正な情報に基づいた自由な意思決定を確保させる点にある。役務提供事業者がその役務提供の形態又は方法を約束することができないときは、その旨を明らかにしなければ、対象消費者が必要な情報に基づいて契約を締結するか否かの意思決定ができないから、被告は、本件エステ契約において、本件アフターサービスの提供の形態又は方法を変更する可能性がある場合は、その旨を同項に基づく書面に記載しなければならない。
・本件エステ契約は、本件対象消費者が一定の金額を支払えば、被告の従業員による脱毛施術を期間無制限で受け続けることができるという内容であり、本件アフターサービスの利用者が増加すれば、本件アフターサービスの提供が困難となり、ひいては本件アフターサービスの提供の形態又は方法を変更せざるを得なくなる可能性が当初からあったといえる。そうであるにもかかわらず、前記認定事実(3)のとおり、被告が本件エステ契約を締結したときに本件対象消費者へ交付した書面には、本件アフターサービスの形態又は方法が変更される可能性について記載がない。そうすると、本件対象消費者は、本件アフターサービスの形態又は方法の変更があり得ることを認識し得なかったというべきであり、適正な情報に基づいた自由な意思決定が確保されていたとはいえない。
・したがって、被告が、本件エステ契約締結時に、特商法42条2項に基づき本件対象消費者に交付した書面には、その記載に不備があったと認められる。

 

 

クーリングオフ期間の進行のために必要となる法定書面の記載の程度 | 弁護士江木大輔のブログ