判例タイムズ1543号で紹介された裁判例です(名古屋地裁令和7年6月19日判決)。

 

 

原告が訴訟提起してA債権を請求したところ、被告が原告に対するB債権をもって相殺するとの抗弁を提出した場合に、原告がさらに被告に対するC債権をもってB債権を相殺するとの再抗弁を主張することができるかという問題について、被告による訴訟上の相殺の抗弁に対し原告が訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは、不適法として許されないというのが判例(最高裁平成10年4月30日判決)の立場です。

理由は、①訴訟外において相殺の意思表示がされた場合には、相殺の要件を満たしている限り、これにより確定的に相殺の効果が発生するから、これを再抗弁として主張することは妨げないが、訴訟上の相殺の意思表示は、相殺の意思表示がされたことにより確定的にその効果を生ずるものではなく、当該訴訟において裁判所により相殺の判断がされることを条件として実体法上の相殺の効果が生ずるものであるから、相殺の抗弁に対して更に相殺の再抗弁を主張することが許されるものとすると、仮定の上に仮定が積み重ねられて当事者間の法律関係を不安定にし、いたずらに審理の錯雑を招くことになって相当でないこと、

②原告が訴訟物である債権以外の債権を被告に対して有するのであれば、訴えの追加的変更により右債権を当該訴訟において請求するか、又は別訴を提起することにより右債権を行使することが可能であり、仮に、右債権について消滅時効が完成しているような場合であっても、訴訟外において右債権を自働債権として相殺の意思表示をした上で、これを訴訟において主張することができるから、右債権による訴訟上の相殺の再抗弁を許さないこととしても格別不都合はなくいこと

③民訴法114条2項の規定は判決の理由中の判断に既判力を生じさせる唯一の例外を定めたものであることにかんがみると、同条項の適用範囲を無制限に拡大することは相当でないこと

が挙げられています。

 

 

本件は、こうした訴訟法上の総裁の抗弁、再抗弁の問題ではなく、いずれも訴訟外での相殺について問題となったものですが、判決は、訴訟外において相殺の意思表示がされた場合には、相殺の効果が確定的に発生し、仮定の上に仮定が積み重ねられて当事者間の法律関係を不安定にし、審理の錯雑を招くという事態に陥るおそれはないため、これを再抗弁として主張することは許されると解するのが相当である。そうすると、上記のとおり、本件相殺の抗弁及び本件相殺の再抗弁に係る相殺はそれぞれ訴訟外の意思表示によってされたものである以上、本件相殺の抗弁に対して控訴人が本件相殺の再抗弁を主張することは許されるというべきであるとしていてます。