判例タイムズ1543号で紹介された裁判例です(鹿児島地裁令和7年4月22日判決)。

 

 

PTAについては最近になってようやくその入会が任意であるということが認識されるようになってきましたが、入会への事実上の同調圧力のようなものがあるという実態についてはまだまだ解消しきれていないのが実情ではないかと思われます。

 

 

本件は、県立高校の教諭が赴任以降、PTA会費を天引きされていたことについて、自分はPTAに入ったつもりはない、また、その意思表示は入会は強制であると誤診したもので錯誤があるとして、学校長とPTAに対して既払いの会費の返還を求めたという事例です。

 

 

以下、第一審は簡裁(請求棄却)のため控訴審としての地裁の判断になります。

 

 

【PTAの入会につき黙示の意思表示が認められるか】

・控訴人は、本件高校に着任するまでの間、自らが勤務先の学校に係る PTA に入会しているものと取り扱われ、本件支払方法によりPTA 会費が支払われることを容認するとともに、本件運用により、特段の意思確認なく、異動先の学校に係る PTA についても上記の取扱いがされることを容認していたことからすると、控訴人は、本件高校に異動する際にも、同様の認識を有していたものと推認される。
・そうした中で、控訴人は、平成 29 年 4 月に本件高校に着任した後、給与支給明細書及びその他控除明細票の交付を受け、被控訴人 PTA に対する会費が本件支払方法により支払われること、その後、実際に同方法によりこれが支払われたことをいずれも認識しつつ、特段の異議を述べなかったものであり(前記 1(2)イ)、そのような控訴人の対応によれば、控訴人は、特段の意思確認のないまま、それまでと同様に、本件運用により、自らが被控訴人 PTA の会員と取り扱われ、被控訴人 PTA に対して本件支払方法により会費が支払われることを容認したものと推認される。
・加えて、控訴人の着任当時、本件高校では被控訴人 PTA に関する業務が校務分掌において教職員に割り当てられる業務の一つとして扱われており(前記 1(2)ウ)、控訴人を含む本件高校の教職員は、被控訴人 PTA の存在に加え、教職員らが被控訴人 PTA の入会資格を有していることを当然に認識していたと推認されることにも照らすと、控訴人は、遅くとも平成 29 年 4 月分の会費が本件支払方法により支払われ、これに異議を述べなかったことをもって、被控訴人 PTA に対して平成 29 年 4 月 1 日に遡って入会する旨の黙示の意思表示をしたというべきであり、このことは、控訴人が令和 5 年 5 月 11 日頃に被控訴人 PTA に対して会費の徴収の停止等を求めるまで、6 年以上にわたり、被控訴人 PTA に対する会費の支払に異議を述べなかったこと(前記第 2 の 2(2)及び(3)ア、前記 1(2)イ))によっても裏付けられるというべきであり、この判断を覆すに足りる証拠はない。

・よって、控訴人は、前記の時点及び対応をもって、被控訴人 PTA に入会する黙示の意思表示をしたものと認められる。


【錯誤について】
・遅くとも本件意思表示がされた平成 29 年 4 月の時点では、PTA への加入が任意であることが周知されるようになり、保護者の中には PTA への入会を拒否し、又は脱退する者が出てきていて、PTA の組織や活動のあり方、会費の徴収の適否について、様々な議論がされていることは公知の事実であり、平成 15 年以降教職員の地位にあった控訴人も、そのような議論状況を認識していた可能性がある一方、本件全証拠によっても、控訴人に対して PTA への加入が強制である旨の説明がされた形跡がないことからすると、控訴人が、PTA への加入が任意であることを認識しつつ、消極的ながらも入会や会費の支払はやむを得ないものと判断して、本件意思表示をした可能性がないとはいえない。
・これを措くとしても、控訴人主張の錯誤は、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤、すなわち動機の錯誤に当たる(現行民法 95 条 1 項 2 号参照)から、本件意思表示が改正前民法 95 条により無効となるには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する(最高裁平成元年9 月 14 日第一小法廷判決・裁判集民事 157 号555 頁)ところ、本件全証拠によっても、控訴人が本件意思表示までの間に、本件高校の教職員が業務上被控訴人 PTA に入会し、被控訴人 PTA 関係の業務に公務として従事すべき法的義務を負っている旨の動機を被控訴人 PTA に対して表示するなど、その動機が本件意思表示の内容になっていたことを認めることはできないから、本件意思表示が、改正前民法 95 条により無効であるとはいえない。