判例タイムズ1542号で紹介された最高裁判例です(最高裁令和7年7月11日判決)。
特殊詐欺の出し子に対しては、払戻権限がないのに他人名義のキャッシュカードを使用して現金を引き出したとして窃盗として処断るのが一般的です(被害者はあくまでも現金を摂取された金融機関となる)。
本件は、保険金還付詐欺の事案で、犯人グループが①被害者に対して保険料の還付を受けられると誤信させてグルーブが管理する口座に送金させ、②ATM付近で待機していた出し子である被告人がこれを引き出したという事案ですが、被告人に②についての窃盗のみならず、①の電子計算機使用詐欺についても成立するかが争われました。①について、被害者は自分が還付を受けられると思って振込んでおり、金員を交付する意思はないので被害者に対する詐欺罪は成立せず、犯行グループがいわば被害者を操作して自分たちの管理口座に虚偽の情報を与えて口座の残高を不正に増加させたという電子計算機使用詐欺に問われるものとなります。
問題は被告人自身は、被害者の振込行為に対して関わっていないので、窃盗のみならず、電子計算機使用詐欺にも問えるのかということになります。
原審は、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の行為態様等の本質的な部分を含め、その内容を全く把握しておらず、氏名不詳者らにおいても本件各電子計算機使用詐欺に関する被告人の認識の有無について関心を有していなかったことなどからすれば、被告人と氏名不詳者らとの間に本件各電子計算機使用詐欺についての意思連絡があったとは認められないとし、さらに、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の実行行為を何ら分担していないこと、被告人以外にも振込先口座から現金を引き出す役割を果たす者がいた可能性があり、被告人の存在が必要不可欠であるとはいえないこと、被告人が本件各窃盗の報酬と認識して報酬を受け取っていたことなどを指摘して、電子計算機使用詐欺の共謀は認められないとしました。
最高裁は、次のとおり判示して、被告人と氏名不詳者らとの間で、本件各電子計算機使用詐欺の共謀が認められるとしています。
【判旨】
「被告人の引き出す現金が詐欺等の犯罪に基づいて被告人の所持するキャッシュカードに係る預貯金口座に振込送金されたものであることを十分に想起させ、本件のような態様の電子計算機使用詐欺も、被告人が想定し得る詐欺等の犯罪の範囲に含まれていたといえるから、被告人は、そのような電子計算機使用詐欺に関与するものである可能性を認識していたと推認できる。被告人は、この認識の下、本件各電子計算機使用詐欺の当日午前9時頃から現金自動預払機の設置場所付近で待機し、氏名不詳者らにおいても、被告人が待機し現金の引き出しを行うことを前提として、本件各電子計算機使用詐欺に及んだといえるから、本件各電子計算機使用詐欺の初回の犯行までには、氏名不詳者らが行い、被告人が現金の引き出しを担う電子計算機使用詐欺について、暗黙のうちに意思を通じ合ったと評価することができる。そして、被告人は、氏名不詳者らから指示を受けて、Aらが振込送金する操作をしてから短時間のうちに現金を引き出しているところ、被告人が果たした役割は、本件各電子計算機使用詐欺による財産上不法の利益を直ちに現金として引き出して確保するという本件各電子計算機使用詐欺の犯行の目的を達成する上で極めて重要なものということができる。」