判例タイムズ1541号で紹介された事例です(高松高裁令和6年9月26日判決)。
債権者が弁済を拒むときは法務局(供託所)に供託することにより弁済したのと同様の効果が得られるため、以降の遅延損害金が発生しないなどのメリットを得ることができます。
供託するためには、原則として、債務者が「弁済の提供」をしたものの債権者が受領を拒んだという事実が必要です(民法494条1項1号)。
民法
(供託)
第494条1項 弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
「弁済の提供」は債務の本旨に従って現実になされる必要がありますが(ただし、債権者が予め受領を拒んでいる場合には口頭の提供で足りる。)、債務額に不足していた場合に「弁済の提供」と認められるかという点は古くから問題となっている類型です。
判例では、供託された元利合計金15万3140円が、正当な元利合計額に金1300余円不足するとしても、この一事により弁済提供および供託の効果を否定することはできないとしたものがあります(最高裁昭和35年12月15日判決)。
民法
(弁済の提供の方法)
第493条 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
本件は、労使紛争ですが、未払賃金について債務の本旨に沿った弁済の提供が行われたかが問題となりました。
本件において供託がされた額は、被控訴人 Y1 につき合計 1 万 3440円、被控訴人 Y2 につき 2 万 8860 円でしたが、先立って支払うとして提案された金額には、遅延損害金分が不足していました(被控訴人 Y1 につき 1205 円、被控訴人 Y2 につき 1454 円)。
裁判所は、この遅延損害金の額は、被控訴人 Y1 については、債務総額 1 万 4645 円の約 8 パーセントを占め、被控訴人 Y2 については、債務総額 3 万0314 円の約 5 パーセントを占めるから、債務の本旨に従った弁済の提供といえるほどに不足額が僅少であるとはいい難く、このような支払いの提案(口頭の提供)を申し出たとしても、その効力を生じないから、民法 494条 1 項 1 号の供託事由は認められないとしています。
また、本件供託時には、上記口頭の提供時から更に遅延損害金が増えており、当該遅延損害金の額は、被控訴人 Y1 については、債務総額の約 10 パーセントを占め、被控訴人 Y2については、債務総額の約 6 パーセントを占めるていたもので、本件供託は、その供託額が債務の本旨に従った額とはいえないから、その効力を生じないともしています。