判例タイムズ1540号で紹介された裁判例です(東京高裁令和7年6月24日判決)。
本件の事案の経緯の概要は次のようなものです。
・A(昭和10年生まれの男性)の戸籍上、Aが昭和38年10月2日にBと婚姻し、Xが昭和39年3月にAとBの長女として出生した旨の記載がされていた。
・昭和40年10月、AとBの婚姻無効の裁判が確定し、その旨がAの戸籍に記載された。
・その後、Aは、Cと婚姻し、二人の間にZが出生した。
・令和元年、Aが死亡し(その後Cも死亡)した。
・Xは、Aを被相続人、Zを相手方として、東京家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てた。
遺産分割調停手続においてZはXを相続人ではないと主張したため、Xが、検察官を被告として、Xと亡Aとの間の実親子関係の確認を求める本件訴訟を提起したというものです(親子関係の確認を求めるべき父が死亡しているため被告が検察官となる。Zは当該訴訟に補助参加した。)。
ポイントしては、婚姻無効の裁判によりXはAB間の嫡出子ではないとしても、戸籍には、AとBの長女として出生した旨の記載がされていたことから、これがAによる認知と同様に評価されないかということです。
判例(昭和53年2月24日判決)は、嫡出でない子につき、父からこれを嫡出子とする出生届がされ出生届が戸籍事務管掌者によって受理されたときは,その出生届は認知届としての効力を有するものと解されるとしています。
しかし、本件では、次のとおり判示して、届出がAによってなされたものとは認められないとして、その旨の届出が認知としての効力を有するものではないと判断されています。
「しかしながら、一般に戸籍の記載には事実上の推定力があるものと解されるとしても、上記の除籍謄本の記載がされてから間もなくしてAとBの婚姻無効の裁判が確定しており、そのような確定裁判の存在からは、AとBの間に当事者の双方又は一方に婚姻意思又は届出意思が不存在であったにもかかわらず婚姻の届出がなされた事実がうかがわれるのであり、そのような事情があることに照らせば、上記の除籍謄本の記載から直ちにXの上記指摘に係る事実(Xの出生の届出がAによってなされた事実)を認めることはできない。そして、戸籍上、婚姻無効の裁判確定によりAとBの婚姻の記載が消除された後も、控訴人出生の届出人としてAが記載され続けてきているという点を踏まえても、それだけではAにおいてXがAの子である事実を容認していたとはいい難いし、本件ではXの出生の届出がAによってなされたものであったことを推測させるような、BとAの婚姻無効の裁判に関する事情を含む当時のAとBの関係やXとAとの間の生物学的父子関係に係る事実関係について客観性のある具体的な立証がないことにも照らすと、結局、Xの上記指摘に係る事実を認めるには足りない。」