判例タイムズ1540号で紹介された裁判例です(東京地裁令和6年4月9日判決)。
本件は、平成15年からカードローン取引を続けていた被告から債務整理の相談を受けた弁護士が、「「依頼者と貴社との間で締結された楽天銀行スーパーカードローンにつき、一切の権限を受任した」「カードローンの債務整理に関する相談の件」との記載がある受任通知を送付したところ、保証会社(原告)に代位弁済がなされた上、取引約款の
①「一般の支払を停止し、または債務整理のための和解、調停等の申し立てをし、またはこれらを申し立てられたとき」(当然喪失事由)
②「当行又は保証会社が会員について債権保全を必要とする相当の事由が生ずるおそれがあると認めたとき」(請求による喪失事由)
に該当するとして、期限の利益を喪失したとして残債務全額の一括弁済を求められたという事案です。
前記の記載のある弁護士による受任通知が期限の利益喪失事由に該当するかが問題とされました。
【判旨】(該当しない)
・当然喪失事由について
・喪失時規約における「一般の支払を停止」とは、破産法162条1項1号イ及び3項の「支払の停止」と概ね同義であると解され、具体的には、債務者が、支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて、その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解される。
・被告訴訟代理人(弁護士)の電話での発言には、債務整理という言葉が出ているものの、元金が減らないというだけであって、支払ができなくなっているとまでは述べていないし、直ちに支払を中止して債務整理を行いたいとの意向までは示されていない。本件受任通知書にも、一切の権限を受任したとだけ記載され、添付された委任状にも、「債務整理に関する相談の件」としか記載されていない。他の金融機関に対する支払状況も何ら明らかにされてない上、この時点において、原告補助参加人に対する履行遅滞があったわけでもない。そうすると、上記の電話や本件受任通知書をもって、被告が支払能力を欠くため、一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えていたとか、そのことを表示しているとは、明示的にも黙示的にも読み取れない。
・したがって、被告の上記言動は、「一般の支払を停止」には当たらない。
・また、原告は、「債務整理のための和解・・・の申立て」にも当たると主張する。
・しかし、「申立て」という文言が使われ、その後に調停、破産、民事再生、会社更生といった裁判手続が列挙されていることからすると、裁判所に対する和解の申立てを意味し、私的な債務整理は含まれないというべきである。仮に含まれるとしても、被告が債務整理の申出をしたとは認められないことは、上記のとおりである。
したがって、「債務整理のための和解・・・の申立て」にも当たらない。
・請求による喪失事由について
・上記のような被告の言動や、実際に履行遅滞が生じていなかったことからすると、そもそも「債権保全を必要とする相当の事由が生ずるおそれ」があったとは言い難い。
・また、原告は、本件期限の利益喪失通知をもって、「請求」をしたと主張するものの、ここでいう「請求」とは債務の弁済の請求ではなく、期限の利益を喪失させる意思表示をいうと解すべきであるところ、本件期限の利益喪失通知には、「楽天銀行スーパーローン契約の約旨に基づき」というのみで、具体的な喪失事由は何ら記載されておらず、これをもって「請求」をしたというにも疑問が残る。
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