判例時報2620号で紹介された裁判例です(東京地裁令和6年4月24日判決)。

 

 

本件は、銀行員であった原告が、部下などに対する対応を問題視され繰り返し改善指導を受けたものの改善しなかったと評価され、「原告が残るポストがないこと」「転職活動をしてほしいこと」「今後出社する必要はなく午前8時40分過ぎと午後5時頃に上司に連絡すれば出社扱いにして賃金を支払うこと」として自宅待機命令を受け、判決の認定によるとその後約4年半にわたって自宅待機命令が続いたことが不法行為に該当するか(①)、また、その後、自宅待機命令が解除され出社命令に応じなかったことを理由とする懲戒解雇の有効性(②)が問題とされました。

 

 

①について、裁判所は、次のように指摘し、慰謝料300万円を認めています。

「このような長期間の自宅待機命令は、通常想定し難い異常な事態というべきであり、退職勧奨に引き続いて自宅待機命令を受け、その間ポストを用意することが困難であるとして退職することを勧める発言がされつつ、復帰先も提示されないまま、長期間にわたり自宅待機の状態が続けられたことからすれば、原告については、実質的にみて退職勧奨が継続していたというべきである。退職勧奨は任意のものでなければならず強制にわたることは許されないというべきであるところ、原告の勤務状況に問題があったことが被告の退職勧奨のきっかけとなったこと、その後原告が復帰先について希望どおりにならない場合であっても構わないか否かといった被告の問いに対し明言を避けたことが長期化の一因となった面が否定できないことを踏まえても、参事役が原告の反省を求めることについて終了したとの認識を示し、原告が復帰を明確に求めた平成28年8月9日の面談以降は、原告に退職の意思はないものとして原告の復帰先についての具体的調整を開始すべきといえる。そして、被告は、同月には原告の職場復帰に関する調整を始めなければならない以上、原告に対し同年10月頃までには具体的な復帰先を提示すべきであったといえ、同月以降の本件自宅待機命令は、実質的にみて、原告に対し退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものといえ、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨であったといわざるを得ない。さらに、被告は、その後、原告に対し、復帰先について特段の連絡をしていないばかりか、復帰先について検討したことを裏付けるに足りる客観的証拠もなく、原告を今後どのように処遇しようとしていたかすら不明であり、原告が本件自宅待機命令についてE次長に抗議したり内部通報をしたりしても、これに直ちに対応せず結果的に本件自宅待機命令が約4年半もの長期間に及んでおり、その対応は不誠実であるといわざるを得ない。」

 

 

②については、次のように指摘して本件懲戒解雇を有効としています。

「原告には、本件労働契約に基づき、原則として、出勤し、被告の業務命令に従わなければならない義務があり、原告の主張を踏まえても、本件における業務命令の内容等に照らし、原告がこれらに従うことができなかった事情は認められないため、業務命令違反及び欠勤について、正当な理由はないと判断した。すなわち、労働契約の内容に含まれる業務命令については、当該命令が権利の濫用に当たるような場合でない限り、労働者はこれに従う義務があるといえるところ、原告に対し、就労を継続する意思の有無及び原告の健康状態(就労可能性)について回答すること、出社を命じるとともに出社できない場合にはその理由について回答することを求める本件における被告の業務命令は、労働契約の本旨たる労務提供を命じ、その可否や労務提供できない理由について回答を求めるものであり、少なくとも回答を求められた事項に回答することは容易であること、回答を妨げるような事情も見当たらないことからすれば、原告は、これに従わなければならなかったといえる。また、欠勤についても同様であり、労働契約が存続し出社命令により労務提供が命じられているにもかかわらず労働者の就労義務が免除される場合というのは、原則として考え難く、本件においても、原告が欠勤の理由を回答していない以上、欠勤について正当な理由は認められない。」
「また、本件自宅待機命令は社会通念上許容される限度を超えた退職勧奨として部分的に違法であるものの、被告が先行して違法な行為をすれば、原告は、以後、被告の業務命令に従わなくてよいということにならないのは当然であるし、本件自宅待機命令によって、原告が被告に対し不信感及び恐怖心を抱いた可能性はあるものの、上記のとおり本件業務命令の内容等に照らせば、このことによって、原告の業務命令違反及び欠勤について正当な理由があるということはできない。」