判例時報2616号で紹介された裁判例です(福岡高裁令和6年9月3日判決)。
刑事事件の判決は公判廷で宣告(裁判長が口頭で主文を述べる)することによって告知され(刑訴法342条)、その際に判決書まで用意されている必要はありません(民事訴訟での判決が判決書の原本に基づいてなされるとされていることと異なるところです)。
刑事訴訟法
第342条 判決は、公判廷において、宣告によりこれを告知する。
本件では、危険運転致傷罪に問われた被告人に対し第一審が懲役1年執行猶予4年間の判決を告知しながら、判決書には懲役1年執行猶予3年間と記載があり食い違っていたため、検察官が控訴したというものです。
なお、法廷で告知された内容が懲役1年執行猶予4年間であったことの立証について、検察官は、公判に立ち会った検察官による捜査報告書とその旨を原審の国選弁護人に電話で確認した電話録取書を証拠として提出しています。
控訴審においては、下記の判例を参照しつつ、公判期日において宣告した主文と異なる内容の主文を記載した判決書を作成することは違法であり、かつ、その違法の程度は重大であるから、判決書の内容及び宣告された内容の双方を含む意味での判決全体が、訴訟手続きの法令違反を構成し、かつ、その違法ははんけつに影響を及ぼすことが明らかであるとして原判決を破棄した上で、改めて、懲役1年執行猶予3年間の判決を言い渡しています。ちなみに現判決書に記載された被告人の氏名についても誤記があったようで、わざわざ指摘がされています。
判決の言いなおしをした事例(最高裁昭和51年11月4日判決)
判決は、公判廷において宣告によりこれを告知し(刑訴法三四二条)、宣告によりその内容に対応した一定の効果が生ずるものと定められている(刑訴法三四二条ないし三四六条等)。そうして、判決の宣告は、必ずしもあらかじめ判決書を作成したうえこれに基づいて行うべきものとは定められていない(最高裁昭和二五年(れ)第四五六号同年一一月一七日第二小法廷判決・刑集四巻一一号二三二八頁、刑訴規則二一九条参照)。これらを考えあわせると、判決は、宣告により、宣告された内容どおりのものとして効力を生じ、たとい宣告された内容が判決書の内容と異なるときでも、上訴において、判決書の内容及び宣告された内容の双方を含む意味での判決の全体が法令違反として破棄されることがあるにとどまると解するのが、相当である。
非常上告の事例(最高裁平成17年11月1日判決)
判決は,宣告により,宣告された内容どおりのものとして効力を生じ,宣告された内容が判決書の内容と異なるときは,判決書の内容及び宣告された内容の双方を含む意味での判決の全体が訴訟手続の法令違反となると解される(最高裁昭和50年(あ)第2427号同51年11月4日第一小法廷判決・刑集30巻10号1887頁参照)。そして,その判決が確定したときは,宣告された内容どおりのものが有効に確定し,法令違反は,宣告された内容と異なる判決書の記載部分のみにあると解すべきである。したがって,本件においては,第1審の大阪地方裁判所が宣告した被告人を懲役1年2月に処する旨の内容が有効に確定しているか
ら,第1審判決書のうち,被告人を懲役1年6月に処するとの記載部分を訴訟手続の法令違反として破棄すべきである。