判例タイムズ1527号で紹介された事例です(東京地裁令和5年12月7日判決)。
著作権法の世界では「キャラクターの著作物性」という論点があります。
小説などで言語的に表現されたキャラクターについて、その言語表現自体が著作物であることは当然としても、そこからイメージされるキャラクターについて著作権上の独自の保護を与えるかというコトンが問題とされています。
本件においては、
①通常より大きい三度笠を目深にかぶり
②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み
③口に長い竹の楊枝をくわえ
④長脇差を携えた渡世人
という小説で表現され(木枯し紋次郎)、そこからイメージされたキャラクターについて、元の小説の著作権者の遺族が著作権上の権利を主張したというものです。
キャラクターの著作物性については判例(最高裁平成9年7月17日ポパイ事件判決)があり、つぎのとおり説示されています。
・著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法二条一項一号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。
・けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。
・一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。
・けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。
本判決でも、原告が著作権が侵害されたと主張する著作物につき、①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人という記述であると特定するにとどまり、本件渡世人を個別の写真や図柄等として特定するものではなく、その他に主張する予定もないとしていたことから、原告らは、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合において必要なその連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定するものではないく、著作権が侵害されたという著作物を具体的に特定しないものとして、その主張自体失当とされています。
また、仮に、原告らが、本件渡世人という記述に加え、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の一貫した中心人物という趣旨をいうものとして特定しているとしても、上記中心人物は、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念をいうものであるから、原告らが特定するものは、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないことからすると、これを著作物であると認めることはできないとし、
さらに、本件渡世人に係る記述自体をみても、原告ら主張に係る本件渡世人は、①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人というものであって、渡世人が、三度笠を目深にかぶり、引き回しの道中合羽で身を包み、長脇差を携えていたというのは、江戸時代の渡世人の姿としてありふれた事実をいうものであり、口に長い竹の楊枝をくわえるという部分を更に加えたとしても、これがアイデアとして独自性を有するかどうかは格別、著作権法で保護されるべき創作的表現という観点からすれば、その記述自体は明らかにありふれたものであるとしています。
また、仮に、本件渡世人に対しその後本件テレビ作品で加えられた表現をもって二次的著作物とする原告らの主張に立って、「通常より大きい」三度笠で、「通常よりも長い」道中合羽で身を包んでいるという記述を加えて更に検討したとしても、これらの記述も同じく極めてありふれたものであり、原告らの上記主張の当否を判断するまでもなく、本件渡世人に係る上記記述は、全体として、ありふれた事実をありふれた記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、これを創作的表現であると認めることはできないとも指摘しています。