判例時報2611号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年10月30日判決)。
本件は、中学校の同級生2名によるいじめ事案で、①いじめを受けた生徒(被害生徒)による不法行為に基づく損害賠償請求と②いじめをした生徒(加害生徒)のうちの一人が、被害生徒の両親からのヒアリングにおいて精神的苦痛を受けたことを理由とする不法行為による損害賠償請求の2つから成り立っています。
まず①について、判決は、加害生徒が行ったという悪口やものまねについて、被害生徒の申告や書き留めていたノートの内容と学校が行った聴き取り調査との結果が符合していることなどからそのような事実があったと認定しています。
そして、いじめ防止対策基推進法で「いじめ」として定義されている「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」に該当するからといって直ちに民法上の不法行為となるということではなく、加害行為の態様、頻度、回数などに加えて、加害者側の意図や認識なども考慮して、加害行為の悪質性が相当程度高く、社会通念上供される範囲を超えるものである場合に違法性が認められるとしました。
そして、本件においては、短い期間ではあるが、被害生徒に対して教室内で不潔であるなどと揶揄することがしつこく繰り返されており、なされたものまねも被害生徒の人格を否定するような態様であり他の生徒にも聞こえるような状況であったこと、以前に教師から被害生徒との接し方について注意を受けていたことなどを考慮し、不法行為が成立すると判断されています(慰謝料加害生徒につきそれぞれ5万円)。
②について、本件において、担任や教務主任が同席するもと、被害生徒の両親が加害生徒らに対していじめについてヒアリングするという機会が設けられ、そのうち加害生徒の一人(その母親も同席)が自身に対してなされたヒアリングが不法行為であると主張し、被害生徒の両親に対して損害賠償が請求されました。
判決は、被害生徒の両親によるヒアリングについて、約2時間30分の間、事実を否定する加害生徒に対してそれが虚偽であるという前提の下で事実を認めるように迫る質問をしたり、将来犯罪者になるようなことを指摘する発言をしたりするなど、不適切な面があったことは否定できないとしました。
しかし、そのことが違法であり不法行為となるかという点については、当時被害生徒が不登校となっており、当該加害生徒が制度の中でもいじめ行為を主導していたとして指摘がされていたことなどを踏まえると、質問の仕方が追及的になったり、一部に不適切な発言があったからといって直ちに違法であると評価できないとしました。
そして、被害急いての両親の口調は基本的には冷静で一部の場面を除けば声を荒げたりするようなことはなかったことや、同席していた当該加害生徒の母親の介入により一定の抑止が働いていたことなどを指摘して、全体として社会通念上許容された範囲の者であったとして、違法性を否定しています。