判例時報2612号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年10月18日判決)。
本件は、ざっくりいえば、個人の破産管財人に就任した破産管財人が、破産手続開始後に、破産者が株主であった海外法人から受けた配当(約93億円)につき、課税当局から所得復興税などにつき約53億円の課税処分を受けたため、破産管財人が源泉徴収していてくれればこんなことにはならなかったこと、破産管財人が確定申告をすべきであったことを主張したため、破産管財人が、当該破産者個人に対する損害賠償債務などの不存在の確認を求めて出訴したというものです。
本件において、破産管財人は、事前に、税務署に対して、源泉徴収義務、申告義務があるかについての照会を行っており、税務署から源泉徴収義務はないとの回答を得ており、このような回答結果などについて破産者側にも伝えていました。
判決ではこの点を指摘して、本件のような場合の破産管財人の源泉徴収義務の存否について明確な先例等が見当たらない状況において、破産管財人としては税務署に対する照会以外には納税義務、税額の存否を事前に確認する手段に乏しいこと、源泉徴収義務がないとの税務署からの回答結果にもかかわらず源泉徴収を行なえば、破産財団の減少を招き、破産債権者等との関係で善管注意義務の問題を招きかねないのであって、このような場合に破産管財人として源泉徴収義務を負っていると認めることはできないこと、本件破産管財人が源泉徴収を行わなったことについて、破産管財人としての善管注意義務違反はないと判断しました。
また、破産法97条4号は、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生じた租税債権についても破産債権であると規定しています。
そこで、破産者側は、源泉徴収とは別に、破産管財人が確定申告を行って納税すべきであったと主張しました。
破産法
(破産債権に含まれる請求権)
第97条 次に掲げる債権(財団債権であるものを除く。)は、破産債権に含まれるものとする。
四 国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権(以下「租税等の請求権」という。)であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの
この点については、「「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権とは、破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解する」「所得税は、例外的に分離課税の認められる特殊な所得は別として、一歴年内における各個人の財産、事業、勤労等による各種の所得を総合一本化した個人の総所得金額について、個人的事由による諸控除を行なつたうえ、これに対応する累進税率の適用によつて総合的な担税力に適合した課税を行なうことを目的とした租税であつて、所得源に応じて課税するようなことは、別段の定めのないかぎり、所得税法の予定しないところである。従つて、納税者が破産宣告を受け、その総所得金額が破産財団に属する財産によるものと自由財産によるものとに基づいて算定されるような場合においても、その課税の対象は、それらとは別個の破産者個人について存する前叙の総所得金額という抽象的な金額なのである。このように、所得税は、破産財団に関して生じた請求権とは認めがた」とする判例があり(最高裁昭和43年10月8日判決)、本判決によっても破産管財人による確定申告義務があるとは解されないとし、また、前記のとおり、本件にいお手破産管財人が申告すべきかどうかについても事前照会しており、税務署から申告義務を負わない旨の回答を得ていたことや著名な文献においても所得税の確定申告義務を負うのは破産者個人であっては破産管財人ではないとと記載されていることなども指摘して、この点でも破産管財人の善管注意義務を否定しています。