判例タイムズ1527号で紹介された事例です(東京高裁令和5年12月1日判決)。
本件は,被告人(中国人爆買いグループ)が,他人がユーザー登録したスマートフォン決済サービスを不正に使用して,第三者の登録に係る決済用コード画像(QR コードやバーコードが表示されている画像)のスクリーンショットを示し,多数の商品をだまし取ったということで詐欺罪に問われたという事案ですが、争点の一つが、第三者の登録に係る決済用コード画像(QR コードやバーコードが表示されている画像)のスクリーンショットを示すことが、欺罔行為にあたるかということでした。
当然にあたりそうにも思えますが、クレジットカードと異なり、ペイペイなどのQR コードやバーコードには、名義の表示はなく、店側からすれば誰のQR コードやバーコードであるかには関心を払っておらず提示されれば決済しているのだから、「だました」「だまされた」といえるのか(欺罔行為)ということが問題となりました。
判決は、他人のアカウントを利用することが不正使用として規約に定められているだけでなく,SMS認証などにより厳格な本人確認手続をした者に当該決済方法を使用させている事情を具体的に指摘した上で,他人の決済用コード画像を提示することは,その利用者が提示に係る名義人本人でありその正当な利用権者であることを含意し,それを表示している(挙動による欺罔行為)と評価できるというべきであるとしました。
なお、詐欺罪における欺罔行為とは、単にだますというだけではなく、偽われた事項が被害者にとって財物を交付するか、サービスを提供するかの判断に関わる重要な事項であることが必要です。
この点につき、名義人本人の利用かどうかが被害店舗側にとって交付の判断の基礎となる重要な事項に該当するかどうかについて、加盟店であるの各被害店舗は,規約上,不正使用が判明した場合には決済には応じてはならないとされ,これに違反すれば,加盟店である各被害店舗は支払を受けられない可能性があることや被害店舗の店員が,被告人が示したスマートフォン上の決済用コード画像がスクリーンショットであることは知らなかった,知っていたとすれば支払に応じることはなかったと証言していたほか,客本人ではなく他人名義の決済用コード画像であると分かれば支払には応じなかったと証言していることなどから,各被害店舗にとって,名義人本人の利用かどうかが被害店舗側にとって交付の判断の基礎となる重要な事項に該当するということができる
とされました。