報道もされましたが、判例タイムズ1527号で紹介された事例です(福岡高裁令和5年9月26日判決)。

 

 

人身事故により運転免許取消しと再度の免許取得ができない期間を定める行政処分を受けた原告が、その後、当該交通事故の刑事裁判(過失運転致死傷罪)において無罪判決を受けて確定したことから、先になされた行政処分の無効の確認を求めたという事案です。

 

 

刑事事件で無罪となったのだから同じ交通事故でなされた行政処分も効力を失って当然であるとも思われますが、刑事手続と行政手続は別個の手続であり、行政処分についてはその取消しを求めることができる期間(出訴期間)が処分を受けてから6か月間などと決まっており(行政事件訴訟法14条)、本件では、出訴期間が経過してしまっていたため、取消訴訟ではなく、処分がそもそも無効であったことの確認を求めるという訴訟となっています。

 

 

取消訴訟が提起できない場合に処分の無効確認を求めることができるのであれば取消訴訟の出訴期間の意味がなくなるのではという疑問も湧くところですが、この点について、租税訴訟の事案ですが、判例は、「課税処分に対する不服申立てについての右の原則は、もとより、比較的短期間に大量的になされるところの課税処分を可及的速やかに確定させることにより、徴税行政の安定とその円滑な運営を確保しようとする要請によるものであるが、この一般的な原則は、いわば通常予測されうるような事態を制度上予定したものであつて、法は、以上のような原則に対して、課税処分についても、行政上の不服申立手続の経由や出訴期間の遵守を要求しないで、当該処分の効力を争うことのできる例外的な場合の存することを否定しているものとは考えられない。すなわち、課税処分についても、当然にこれを無効とすべき場合がありうるのであつて、このような処分については、これに基づく滞納処分のなされる虞れのある場合等において、その無効確認を求める訴訟によつてこれを争う途も開かれているのである(行政事件訴訟法三六条)」と説示して、これを肯定しています(最高裁昭和48年4月26日判決)。

 


ただし、続けて「課税処分につき当然無効の場合を認めるとしても、このような処分については、前記のように、出訴期間の制限を受けることなく、何時まででも争うことができることとなるわけであるから、更正についての期間の制限等を考慮すれば、かかる例外の場合を肯定するについて慎重でなければならないことは当然である」とした上で、

「一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等を勘案すれば、当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであつて、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である。」と説示してます。

 

 

本件においても、裁判所は、上記判例の判断枠組みを踏まえたうえで、本件事故の原因について改めて詳細に証拠関係を検討した上で、「本件各処分には処分要件の根幹についての内容上の過誤が認められるところ、本件各処分は、処分行政庁と被処分者である原告との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等を考慮すると、処分行政庁が本件各処分に際し、被告主張の事故態様を認定してこれを前提としたことについて、原告に何らかの帰責性が認められるなどの特段の事情のない限り、運転免許行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被処分者(原告)に本件各処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情があるといえ、上記内容上の過誤による瑕疵は、本件各処分を当然無効にするものと解するのが相当である。」(第一審判決)と説示しています。

 

 

そして、処分行政庁がなした事実認定に対して原告に何らかの帰責性が認められるかということについて否定して本件各処分は無効であると結論付けています。

なお、この点に関して、原告が本件各処分に先立つ意見聴取手続に欠席し、何らの意見も述べていないこと、本件各処分後も、審査請求や取消訴訟の提起といった不服申立手続をすることができたにもかかわらず、合理的な理由なくこれをすることなく出訴期間を経過していることについて、控訴審ではつぎのとおり指摘しています。

・そもそも本件各処分はその処分要件を欠くものであって、その取消しをすること(結果的に適法な行政処分をすること)については、被控訴人に帰責性があることが障害となるとは基本的に解されない(なお、最高裁判所第三小法廷判決昭和62年10月30日参照)。このことに鑑みると、本件各処分を当然無効とする際に考慮すべき特段の事情の一つである被控訴人の帰責性については、慎重に判断すべきである。
・そこで検討すると、被控訴人の意見聴取の機会における弁明がなくても、本件防犯カメラ映像等からすれば、本件処分庁において、被害者車両の動静を想定し、本件被害者にも過失があったと考えることができるのは前記説示のとおりであり、本件事故は専ら当該違反行為をした者の不注意で発生したものとすることは認定できないのであるから、被控訴人が弁明の機会を放棄したことが本件各処分をすることの一つの考慮事情となったとしても、それをもって被控訴人に帰責性があるということはできない。
・また、本件事故は極めて重大な結果を惹起したものであって、被控訴人は加害者として強い自責の念を抱いていたと推認され、このことと、福岡県警察本部運転免許管理課の意見聴取の日までに、複数回警察による取調べを受けて調書の作成に応じていたことを併せ考慮すると、上記意見聴取において改めて弁明をすることを放棄したことについて、被控訴人に帰責性があるとは認められない。