判例時報2609号で紹介された裁判例です(東京高裁令和4年12月13日判決)。
本件は相隣関係の紛争事案で、袋地所有者である会社(被告)がその従業員の通勤のために通路を使用して自動車を通行させていることに対して、通路所有者である原告がその差止めなどを求めたというものです。
もう少し敷衍して説明すると、隣地関係の状況としては、当該袋地にも通じる通路は昭和40年には建築基準法上の位置指定道路とされ、それ以降、通路として使用されており、自動車の通行の用途にも供されていました。
被告会社は平成30年に袋地を購入しましたが、袋地といっても、当初は問題の通路を利用しなくても一般道路に出入りすることができる状況でした。その後、当該通路を利用しなければ通行できない場所に従業員用の駐車場を設けたため、当該通路を利用しなければならなくなったところ、当該通路所有者が差止などを求めて提訴したという経緯でした。
第一審は、被告会社は本件道路の通行について日常生活上の利益を有するともいえず、また、原告の請求が権利の濫用にも当たらないとして、原告の請求を認容しました。
なお、第一審判決が指摘した「日常生活上の不利益」というのは、「位置指定道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する。」と説示した判例(平成9年12月18日判決)をもとにしたものです。
控訴審は、これとは逆に通行の差止め請求を認めませんでした。
まず、自動車による通行禁止が認められるかについては、当該土地の地理的状況、当該私道の従前の使用形態、通航制限の雲的・態様、当該私道に接道する敷地所有権者等の敷地利用状況、他の通行手段の有無当の諸般の事情を考慮すべきであるとした上で、本件においては当該通路は昭和40年から位置指定道路として長年一般公衆による自動車での通行の用に供されてきたことを指摘し、被告会社が従業員用の駐車場を設置したことから本件通路を使用することが必要となったが、その利用者は不特定の第三者ということではなく、被告会社の従業員のみが使用することが予定されており、実際に利用される頻度などもさほど多いものではなく、他者の交通の妨げや住環境の悪化をもたらすようなこともなかったこと、通路の使用ができなくなると被告会社は駐車場として利用できなくなることなどを指摘しています。
他方で、原告が通路の差止めを求めたのは、被告会社が無断で通路を使用したという精神的苦痛を理由としたもので、通路の管理上の理由によるものではなかったことなどをあげ、被告会社による自動車での通行については位置指定道路の所有者として受忍すべき限度内であるとしました。
なお、被告会社の駐車場の設置の選択いかんによっては通路を利用しないという選択肢もあり得たのではないかという点については、被告会社が土地を購入際に自動車での通行を一部の者に限るといった警告が表示されていたということもなく、被告開始屋を非難するには値しないとされています。
また、原告には具体的な支障が生じているわけではないのに対して、本件通路を利用できないという被告会社の不利益が大きいのにもかかわらず、協議の申し入れも一切拒否して自動車での通行を全面的に禁禁止することを求めるということは権利の濫用にも該当すると判断されています。
なお、前記平成9年判例との関係については、平成9年判例は、私道を通行する者から私道所有者に対する妨害排除請求に関するものであって、本件は、私道所有者からの通行禁止請求であるから、事案を異にするものであるということも説示されています。
自動車通行を前提とする囲繞地通行権が認められた事例 | 弁護士江木大輔のブログ