判例タイムズ1525号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年12月5日判決)。

 

 

本件は、ペットショップから生後2か月のトイプードルを購入(ペットショップへの入荷の1週間以内に購入)した原告が、犬の食欲がないことから、購入の1週間後に獣医師に連れて行ったところ、ミミヒゼンダニによる外耳炎及びジアルジア感染による腸炎と診断されたため、ペットショップに対して、寄生虫に感染し又は本件疾病を発症している犬を原告に販売したことについて、債務不履行又は不法行為に基づく責任を追及したという事案です。

 

 

本件では、売買契約の当時、そもそも既に本件犬が本件疾病を発症していたかが争点の一つとなりました。

判決は、診察した獣医師の意見(寄生虫への感染は原告の飼育により生じた可能性は低く、原告への引渡しの以前に生じた可能性が強く疑われる旨の意見)のほか、本件寄生虫の感染経路、生態(ヒゼンダニの成長に要する期間、ジアルジアのプレパテント・ピリオド)及び疫学に関する知見を併せ考慮すると、本件犬は、本件売買契約の当時、本件寄生虫に感染していたものと推認することができるとしました。
 しかし、上記の獣医師の意見は、原告への引渡し以前に本件疾病を発症していたことが疑われるというものではなく、飽くまで、本件寄生虫に感染していたことが疑われるというものにとどまり、ペットショップの病院の獣医師は、本件売買契約の前日、検便の結果等から本件犬の健康状態に問題はないと判断し、また、ペットショップの従業員及び原告のいずれも、本件売買契約の当日、本件犬を目視し、その健康状態に特段の異常はない旨の判断をしており、本件犬の食欲が顕著に悪化したのは、本件売買契約から5日後のことと認められることから、疾病を発症していたとまではいえないとしました(本件売買契約の翌日にも食欲の減退がみられたことがうかがわれるが、これは環境の変化によるものである疑いを払拭することができない)。

 

 

契約時に目に見える形で疾病が発症していたのであればペットショップの責任を肯定する方向に働きますが、発症しておらず目には見えない寄生虫の感染ということであれば、ペットショップの責任としては微妙になってきます。

 

 

この点、判決は、本件売買契約は、本件犬という特定物の売買であると認められ、債権の目的が特定物の引渡しである場合について規定する民法483条によれば、本件犬が本件売買契約又は取引上の社会通念に適合する品質を備えた犬でなかった場合には、売主である被告は、買主である原告に対し、本件売買契約に基づく目的物の引渡義務について、債務の本旨に従った履行をしなかったものと評価すべきであるとし、本件売買契約においては、原告に引き渡された後に本件犬が疾病にかかった場合には、被告は法的責任を負わない旨が定められていることを指摘しています。
 また、本件売買契約が締結された令和3年9月当時、動物愛護法及びこれに基づく環境省令の規定によれば、被告(ペットショップ)のような第一種動物取扱業者は、①販売する動物の疾病の予防、寄生虫の寄生の予防又は駆除等の日常的な健康管理を行い、②当該動物が疾病にかかった場合には速やかに必要な処置(獣医師による診療を受けさせることを含む。)を行わなければならず、③2日間以上その状態(下痢、おう吐、四肢の麻痺等外形上明らかなものに限る。)を目視によって観察し、健康上の問題があることが認められなかった動物を販売に供しなければならないものとされていたところ、これらの定めは、動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するためのものであったことからすれば、第一種動物取扱業者は、これら定めを遵守していた場合には、取引上の社会通念に適合する品質(健康状態)を備えた動物を販売したものと解するのが相当であるとし、本件において、ペットショップはこれらの定めを遵守していたと認定した上で、原告の請求を棄却しています。