弁護団は声明で、「無罪判決を受けた袴田さんを犯人視することであり、名誉毀損(きそん)にもなりかねない」と厳しく批判。記者会見した小川秀世事務局長は「法律的にも事実の認識としてもおかしいし、きちっとした謝罪もされていない。修正された談話を検事総長が出すべきだ」と訴えた。
(10月10日時事ドットコムニュースから一部引用)
検事総長の談話の内容は、有罪立証をしたいのはやまやまだが諸事情を踏まえて控訴はしないというもので、袴田さんが犯人であるという事実が前提となっているものであって、検察トップがこのような談話を出したのであれば袴田さんがやはり犯人であると信じてしまう人は数多く出てしまうおそれがあるものであり、名誉毀損が十分に成立する可能性があるのではないかと思います。
一般人が誰かを犯罪者として公に指摘すれば、間違いなく名誉毀損として民事、刑事上の責任を問われるものと思います。
類似する事案として、国松警察庁長官狙撃事件に関し、アレフ(旧オウム真理教 原告)が,警視庁が,記者会見及び警視庁のホームページ上において,犯人をオウム真理教信者であると公表したことが原告に対する名誉毀損に当たると主張して,損害賠償と謝罪文の交付を求めたという事案があります。
東京地裁(平成25年1月15日判決)は、警視庁という公的な捜査機関が,長年にわたる捜査の結果を踏まえた上での公式見解として,相応の根拠を示して行われたものであって,本件各摘示部分が公表されたことにより,本件狙撃事件はオウム真理教によって組織的・計画的に実行されたものであると受け止めた一般読者(閲覧者)は多数いるものと推認される(インターネットの掲示板上に,「確かにあの発表はまずいけど HPで資料読んだらオウム真理教と思わざるを得ない」,「オウム真理教の犯行と断定できるだけの証拠はあったんだろう。ただ犯人特定に至らなかっただけだ」などと本件公表の内容を真実と受け止める書込みも多数見受けられるところである上,今後も本件公表が様々な場面で引用されるおそれがあることなどに鑑みれば,本件各摘示部分が公表されたことによる社会的影響は重大かつ継続的なものというべきであると指摘し、名誉毀損の成立を認めて、慰謝料100万円に加えて謝罪文の交付まで認めています。
また、判決では、「検察官が被疑者を不起訴処分としたにもかかわらず,警察官が当該被疑者を犯人であると断定,公表して,その者に事実上の不利益を及ぼすことは,無罪推定の原則に反するばかりでなく,被告人に防御権が保障された厳格な刑事手続の下,検察官が起訴した公訴事実につき,公正中立な裁判所が判断を下すという我が国の刑事司法制度の基本原則を根底からゆるがすものと言わざるを得ない。」とも指摘しています。
なお、控訴審では名誉毀損の成立に基づく慰謝料の支払いについては判断が維持された上で謝罪文の交付については取り消されています。
仮にですが、本件で、袴田さんが名誉毀損として国家賠償請求をした場合、国側は、真実性(袴田さんが犯人であること)又は真実相当性(袴田さんが犯人であると信じたことにつき相当な根拠があること)についての立証をするという立証構造となるわけですが、まさか、刑事手続きでは再審を続けることは世論の風当たりが強いので、そちらの手続で再チャレンジを狙っているなどということはないことはないでしょうが(さすがに裁判所もそのような主張立証を許さないと思います)。
袴田さん再審無罪へ 検察が特別抗告断念―57年経て、静岡地裁で公判 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)