判例タイムズ1522号で紹介された裁判例です(大阪高裁令和5年1月12日判決)。

 

 

本件は、小学校(4年生)における図画工作の授業を受けていた際、同級生が木材に打ち込まれた釘を抜くために使用していたマイナスドライバーの先端が同木材を押さえていた本件児童の左眼に当たるという事故が発生し負傷したという痛ましい事故につき、本件児童側が、教諭が①マイナスドライバーの使用自体を指導してはならない義務、②マイナスドライバーの使用方法に関する説明義務及び指導義務、③マイナスドライバーを使用する際の席の配置につき注意すべき義務、④児童の行動等を監視すべき義務に違反したと主張して国賠請求したという事案です。

 

 

第一審判決は請求を棄却しましたが控訴審では教諭の過失をつぎのとおり認め、約200万円余の損害賠償を認めています。

・工具を使う図工の授業においては、工具それ自体が児童の生命や身体に危害を及ぼす危険性のある刃物類や工具の通常の使用によっては危険性を生じさせないとしても、その使用方法によっては危険を生じさせる可能性のある金属類が含まれているから、児童がこれらを適切に使用することができるように、児童の理解度や習熟度に応じて、教諭が適切に指示した上これを監督すべき注意義務がある。小学生は、一般に工具に対する理解度や習熟度が低く、その危険性を認識せずに工具を使用し、また工具を使用する場所で行動するおそれが高くなるから、教諭は、より一層児童に対する指導監督に配慮すべき注意義務を負うことになると解される。

・マイナスドライバーは、マイナス溝のあるねじを締め付けて固定したり緩めて外したりする作業(締緩作業)を行うための工具であり、学習指導要領及び同解説にはマイナスドライバーを含むねじ回しに関する記載がなく(なお、中学校学習指導要領解説技術家庭編において、製作品の電気的な部品組立て等を行う場合に、ねじ回し等の工具を用いるとの記載がある。)、もちろんマイナスドライバーを釘抜きのために用いる本件方法は、学習指導要領に記載されていない。他方、学習指導要領では、第1学年及び第2学年では、身近で扱いやすい用具に十分に慣れることとされ、身近で扱い易い用具として、はさみや簡単な小刀類等が挙げられており、また、第3学年及び第4学年では、表現の活動を通じて、用具を適切に扱うとともに、前学年までの用具についての経験を活かすこととされ、用具として、板材や釘とともに小刀、使いやすいのこぎりや金づち等が挙げられている。学習指導要領の上記記載からすれば、小学校第4学年において、マイナスドライバーを用具として扱うことは許容されていたというべきである。・ただし、マイナスドライバーの用途は上記のとおりマイナス溝のあるねじの締緩作業を行うことにあるから、これと異なる釘抜きのために用いることまで許容されていたとまでは断定できないものの、学習指導要領においては、多様な扱いを試み工夫することは推奨されていることなどから、マイナスドライバーを本件方法で使用することが許容されていたと解する余地はある。ただし、仮に許容されていたと解することができたとしても、その場合には、マイナスドライバーの通常の用法とは異なった用途に用いるのであるから、特に安全に配慮することが必要であり、児童の理解度や習熟度等に配慮しながら指導することが重要である。

・本件授業で用いられたマイナスドライバーは、金属製の軸とその先にある先端部分を、これと一体となっているプラスチック製の持ち手を握って回転させることにより先端部分も回転させて用いる工具であるが、持ち手はプラスチック製で滑りやすく、軸も一定の長さがあるため、本来の用い方をする場合でも、教師用指導書に、一方の手で軸部を支えながら他方の手で持ち手を回すようにして両手を使うよう指導することが図示されているとおり、使用の際には先端部分がねじの頭から外れることがないように使うことが想定されているということができる。そして、マイナスドライバーの上記のような特徴に照らせば、差し込んだ先端部分をねじるなどして差し込んだ部位から外れやすくなるような用い方をしたり、不安定な持ち方をしてマイナスドライバーが滑るなどした場合には、その先端部分が他の児童に当たり、他の児童が負傷する危険を内包する工具であることは、明らかである。
・したがって、教諭がマイナスドライバーを本来の用い方ではない用途に用いる場合には、その用途で用いる必要性を十分に検討した上で、児童の年齢、経験、理解力に応じて、その危険性とともに、安全に用いるための方法について十分に説明し、不用意に接近した他の児童にマイナスドライバーが当たるなどの事故が起きないように、児童を指導したり、児童の動静を監視する義務があるというべきである。

・教諭が指導した本件方法は、釘の頭が打ち込まれて、釘抜きの割り込みを釘の頭と板との間に差し込むことができない場合に、マイナスドライバーの先端を片手で持って同じ個所に差し込み、その上で、手首を左右にひねるという方法であるから、児童がマイナスドライバーの先端を釘の頭と板の間に差し込もうとして力を入れた結果、釘の頭の上をマイナスドライバーの先端が滑る危険がある。特に、マイナスドライバーの使い方に習熟しているということができない小学4年生の場合、どの程度の力加減で作業をすればよいのか、経験を重ねていないため判断が困難であり、必要以上に力を入れた結果、マイナスドライバーの先端部分が前方に滑る危険性は十分にあったというべきである。

・本件方法によってマイナスドライバーを用いて釘の頭を起こす作業は、微妙な力の入れ加減を必要とする難易度の高い作業であるから(なお、教師用指導書には、釘が板面から飛び出したときには、金づちで釘を打ち戻してから釘抜きで抜く方法があると解説されており、本件では釘が板材を貫通していたと認められるから、本件方法以外のより安全かつ簡易な方法で釘を抜くことが可能であった。)、本件方法を指導するD教諭としては、本件方法を説明するに当たっては、本件作業を行っている場合には、周囲、特に前方に近づくことがないよう説明して注意を喚起するとともに、本件方法を行う際には周囲に他の児童がいないことを確認した上で行うよう説明すべき注意義務があったというべきである。

・しかしながら、教諭は、本件方法を説明するに当たり、本件方法を行っている場合には、周囲、特に前方に近づかないことや本件方法を行う際には周囲に他の児童がいないことを確認した上で行うことなどを説明せず、また、本件方法を行っている児童の周囲に他の児童が近づかないよう指導することもなかった。