判例タイムズ1519号などで紹介された最高裁決定です(最高裁令和5年10月11日決定)。

 

 

・殺人及び死体遺棄の犯人性を争った被告人につき、第1次第1審判決は、被告人が各殺人及び死体遺棄の犯人であると認定する一方、侵入時にはAを殺害する目的を有していたにとどまり、Bを殺害する目的もあったとは認められないとした上で、被告人を懲役23年に処しました。
・これに対し、検察官及び被告人の双方が控訴し、控訴審判決は、被告人が犯人であることを前提とした上で、第1次第1審判決は、不適切な量刑資料を用いたため、量刑傾向の把握を誤り、その結果、不合理な量刑判断をしたものであって、検察官の量刑不

当の控訴趣意はこの限度で理由があるとして、同判決を破棄し、事件を第1審裁判所に差し戻しました。

・第2次第1審裁判所は、量刑判断の論理的前提となっている各殺人及び死体遺棄の犯人性について第1次控訴審判決の拘束力が及んでいるから、これに抵触する判断は許されないと判示した上で、被告人が、Aを殺害する目的で、A及びB方に侵入し、同所において、A及びBをいずれも頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した上、両名の死体を遺棄したとの事実を認定し、被告人を無期懲役に処しました。
・これに対し、被告人が控訴しましたが、原判決は、第1次控訴審判決の拘束力について、同判決は、第1次第1審判決の量刑判断が不合理であるとしてこれを破棄しているところ、被告人が各殺人及び死体遺棄の犯人であるなどとした第1次第1審判決に事実誤認がないという判断部分についても、上記破棄の判断の論理的な前提となっている以上、当然に拘束力を有するものと解され、第2次第1審判決の判断に不相当なところはないなどと判示して、控訴を棄却しました。

 

 

【争点】

被告人の犯人性を認定した点に事実誤認はないと判断した上で、量刑不当を理由としてこれを破棄し、事件を第1審裁判所に差し戻した控訴審判決の拘束力を有する判断の範囲

 

 

【判旨】

裁判所法4条は、「上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。」と規定しているところ、同条の趣旨は、審級制度の存在を前提に、事件が上級審の裁判所と下級審の裁判所とをいたずらに往復することを防止しようとするものであると解される。そして、前記のとおり、第1次第1審判決は、被告人が各殺人及び死体遺棄の犯人であると認定し、第1次控訴審判決は、この第1次第1審判決の認定に事実誤認はないと判断した上で、その刑の量定が不当であるとしてこれを破棄したものであるところ、刑の量定は、犯人性の認定を当然の前提とするものである。
 以上のような裁判所法4条の趣旨及び第1次控訴審判決の判断内容等を踏まえると、本件のように、第1審判決について、被告人の犯人性を認定した点に事実誤認はないと判断した上で、量刑不当を理由としてこれを破棄し、事件を第1審裁判所に差し戻した控訴審判決は、第1審判決を破棄すべき理由となった量刑不当の点のみならず、刑の量定の前提として被告人の犯人性を認定した同判決に事実誤認はないとした点においても、その事件について下級審の裁判所を拘束するというべきである。

 

 

裁判所法

第4条(上級審の裁判の拘束力) 上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。